Pebble E-Paper Watch長い間待った甲斐がありました。

数年前からよく聞こえてくるIT関連のキーワードとして「クラウド」というのがあります。複雑な計算やデータ保存など実質的な処理をネットワーク上のサーバーに任せ、ユーザは携帯端末などからブラウザや簡単なアプリケーションで実現されたユーザインタフェースを利用する、というようなもので、正しくは「クラウドコンピューティング」というものです。これとよく似た言葉で「クラウドファンディング」というものがありますが、似ていると思うのはおそらく日本人だけで、前者のクラウドが”cloud”すなわち「雲」であるのに対し、後者は”crowd”つまり「群衆」です。

従来のベンチャー企業の資金集めは主にベンチャーキャピタルなどからまとまった投資を受け、キャピタルゲインをその見返りとするようなものだったかと思います。クラウドファンディングは大口の投資を受けるのではなく、不特定多数の人々から少額の資金を集めるというもので、インターネットの普及によって可能になったものと言えます。その代表的なものがKickstarterで、さらにここで過去最高の1000万ドルという資金調達に成功したのがPebble TechnologyのPebble: E-Paper Watch for iPhone and Androidというプロジェクトです。

私は昨年4月のEngadgetの記事でこのプロジェクトのことを知ったのですが、一口$1の寄付から黒のPebbleが1つ見返りにもらえる$115のコース、そして100台もらえる$10000のコースまである中で、私が選んだのは$125で好きな色のPebbleを1台もらえるというコースでした。私もすぐに飛びついたというわけではなくちょっと考えてから申し込んだので、その時点ではすでに資金調達の成立は確実になっていましたが、最終的には目標額の1000倍が集まるという、クラウドファンディングの歴史に残る大成功となったようです。

さて、Pebbleとは何か、ということですが、要するに腕時計です。今ではAppleも開発しているのではないかと言われて一部で話題になっているスマートウォッチと呼ばれるもので、BluetoothによりiPhoneAndroidのスマートフォンと通信し、電話やメールの着信を知らせたり、スマートフォンのアプリケーションと連動して各種表示などができるというものです。それらの中でもPebbleの特徴と言えるのは表示にE-Paperを採用していることで、モノクロ2値表示に限定されている代わりに低消費電力によるバッテリーの長寿命と高いコントラストを実現しています。

開発が進むにつれスペックも更新され、Bluetooth 4.0に対応するようになったり、新色のグレーが追加されたりしましたが、一番嬉しいのは生活防水仕様となったことです。今となっては時計が防水であることなど当然のように感じてしまっていますが、もしもそうでなかったとしたらトイレで手を洗う際にもいちいち外したり気を使わなければいけないところでした。

当初、手元にPebbleが届くのは昨年9月の予定でしたが、こうした仕様変更の影響などもあったのか実際に製品の発送が始まったのは今年に入ってからで、しかも最初は黒のみ発送ということでした。私は白を選んでいたのですが、黒以外のパネルはまだ量産品質に達していないということで、途中で「黒ならすぐに発送できるので変更しないか」と持ちかけられました。私も最初は迷いましたが、全く目処がたっていないようなようすだったので、このまま待ち続けていると陳腐化してしまうのではないかということで変更を決断しました。最近になって白ももうすぐという発表はありましたが、結局今の時点でも発送できていないようなので判断は正しかったのではないかと思います。

ということで出資してから一年以上経って、ようやく先日黒いパネルのPebbleが手元に届きました。デザインされた箱の中にはPebble本体の他にはUSBの充電ケーブルが入っているのみです。防水性のためにこのケーブルが汎用のものでなくなっていることに不満を持っている人もいるようですが、その代わりにMacのMagSafeのように磁石でつくものになっていて簡単に付けられるため、私はこの方が良いと思います。ただ、代わりのケーブルが用意に入手できないと断線した時などには困りそうですね。

私の携帯電話はiPhoneでもAndroidでもなく対応できないため、PebbleはiPadとリンクすることになるのですが、Bluetoothのリンクは設定パネルで簡単にできます。その後専用アプリを起動すると最初にファームウェアのアップデートを促されますが、これもBluetooth経由で行われ、ボタンをタップして数分後には再起動されて完了します。またこのアプリから追加の文字盤やその他のアプリをインストールすることができます。

このPebbleのスマートウォッチならではの点として、文字盤やアプリを自分でプログラムしてインストールできるということがあり、私の購入同期も専らここにあります。コンパイラやSDKといった開発環境は無償で提供されており、ドキュメントも充実してきています。公式サイトに開発者のためのフォーラムもあるため、必要な情報はここで入手できるでしょう。私も一つ文字盤を作って使用していますが、それが写真の通りのもので、下段に表示されているのはSwatch Internet Time、フォントはUbuntuを使用しています。この程度のものであれば開発環境を整えるところから数時間でできてしまいました。

E-Paperの表示パネルは素晴らしいもので、頻繁な書き換えが必要ない時計には最適の表示デバイスではないかと思います。画面が小さいので表示の書き換えの遅延はKindleのようには気にならず、高いコントラストで強い日差しの下でも薄暗がりでも、どんな時もくっきり見えます。もちろん真っ暗なところではバックライトが必要ですが、内蔵されているGセンサのおかげで腕をちょっと振るだけで点灯するため全くわずらわしさがなく、これも素晴らしい点です。

ベルトはもともと黒い樹脂製のものが付属しているのですが、これは少々チープなもので満足できるものではありません。しかし、いわゆるNATOストラップが使用できるという事前情報があったので 、当初私は白いパネルに合わせて黒の革製のものを準備してしまっていました。黒いパネルのものが届いてからも最初はそれを使用していたのですが、やはり黒に黒では物足りず、結局買い直したのが写真の黒とカーキのストライプのものです。今はこれに非常に満足していますが、NATOストラップには様々なバリエーションが存在するので、傷んできたらまた別のものに交換しようと思っています。

届いて早速会社にも付けて行っていますが、新し物好きの数人が喰いついてきて話題性は十分ですが、もともとPebbleを知っていたという人には出会っていません。Pebbleを持っている人を見かけたこともありませんが、それは私の行動範囲でのことで、サンフランシスコや東京などに行けばチラホラといるのでしょうね。まあ人がどうであろうが私は自分で気に入っているのでそれで十分です。ただこの会社、次の製品はちゃんと考えているのでしょうか…