光と陰は表裏一体。
昨年10月から12月にかけては毎週のように観たい映画が公開されて嬉しいような困ったようなという感じだったのに、年末からは途端に観るべきものがなくなってしまっていたのですが、ようやく久しぶりに観たいものが目白押しとなってきました。2月に入ってようやく今年最初の映画となったのは、「ラ・ラ・ランド」で主演のRyan Goslingと監督のDamien Chazelleが再びタッグを組んだ、などという宣伝文句もありますが、その映画「ファースト・マン」です。
そのタイトルだけで十分察しはつきましたが、アポロ11号で月面に降りた最初の人類であるNeil Armstrongの伝記的作品で、彼が宇宙計画に加わるところからアポロ11号で地球に帰還するところまでを描いたものとなっています。しかし、ともすれば華々しくヒーローを描いたものになりがちなテーマですが、Armstrongその人が抱えた苦悩を描き出した重厚な作品となっています。
Armstrong役はRyan Goslingですが、この人はなんだか物悲しい表情をしますよね。本作では様々な悩みを抱える役柄なので、彼にピッタリの役かもしれません。そしてArmstrongの最初の妻Janet役はClaire Foyなのですが、この人がArmstrongを見つめるときの目の大きさは映像を加工しているのではないかと思えるほどで、非常に印象的でした。なお、字幕は元宇宙飛行士の毛利衛氏が監修されているということで専門用語のおかしな訳もなくて良かったのではないかと思います。こういった作品では誤訳一つが致命的な結果になってしまうこともありえますので、重要なところです。
ちなみに私は1978年に東京・有明13号地、今のお台場で開催された宇宙科学博覧会(宇宙博)に連れて行かれて感銘を受け、それ以来当時の宇宙開発には特別な思いを感じています。考えても見ればまだコンピューターも満足に発達していないのに、軌道計算も電卓どころか筆算でやっていたような時代に相当無茶な話です。しかしそれを成し遂げ、1回ならず6回までも月面に足跡を残したというのは恐ろしいくらいのことです。この計画自体は冷戦の産物であり、多分に軍事・政治目的のものでありましたが、科学技術の進歩に果たした役割も大きなものがあるはずです。現在のNASAは当時と比べるとだいぶ勢いが無くなってしまっているように見えますが、Kennedy Space CenterやJohnson Space Centerには毎日多くの観光客が往時の栄光を求めてやってきています。今は月面着陸はコストに見合う成果が得られないと考えられていると思いますが、次に盛り上がるのは火星でしょうか。
また、幸運なことに私は2008年にArmstrongの講演を聞いたことがあり、比較的近くで肉眼で見たことがあるのですが、これはなかなか貴重な経験ではないでしょうか。残念ながら当時の私の英語力は今と比べても大したことはありませんでしたし、Armstrong氏もすでに結構な老齢だったので話が聞き取りづらく、喋っていたことはほとんどわかりませんでしたが、「あの」アームストロング船長が目の前にいるというだけで感動的でした。また、周囲のアメリカ人にとってはまさに英雄の中の英雄であり、皆背筋を伸ばして話を聴き、公演の前後は立ち上がって拍手とともに迎え送り出していたのも印象的でした。実はこの講演の際、お土産としてこの映画の原作になっている”First Man: The Life of Neil A. Armstrong“という本をもらっていて、今でも持っているはずなのですが、分厚い本なので一度も読んでいません。この機会に意を決して読んでみることにしましょうか。
というようなことで映画とは関係のない話が多くなってしまいましたが、決して派手さはないもののアポロ計画に多少なりとも思いのある人にはいい映画だと思います。