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Vice

良い伴侶を持つことが重要。

昨日「何か観るべき映画はなかったかな」と映画館の上映スケジュールを見てみたところ、どこかで聞いたような気がしてちょっと引っかかったのが「バイス」だったのですが、開演時刻が7時からとちょうど良かったので、あまり深く考えずに観てみることにしました。今になってみると、もしよく考えていたら観なかったのではないかと思えるので、結果的には良かったのではないでしょうか。

この作品はアメリカの第46代副大統領(Vice President)であるDick Cheneyの伝記映画とされていますが、Cheneyを称えるようなものではなく、やや批判的なスタンスでコメディ的に、一部茶化すような感じで描いているものです。したがって、政治家の伝記だからといって退屈なものではなく楽しんで観ることができましたし、世界一の超大国の名目ナンバー2、実質的にはナンバー1であったかもしれない男の姿をドラマティックに描いているので、そういう面でも飽きずに観ることができました。

本作は「本年度アカデミー賞受賞」と大きく謳っているようですが、受賞したのは「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」のようです。確かに実在の超大物らを演じている各俳優は本物の姿を彷彿とさせるものになっていましたが、特にCheneyを演じたChristian Baleは驚異的です。そういえば私がこの映画のことを知ったのはこのBaleの役作りのための変身をニュース記事で見たからでした。Baleはもともと「マシニスト」で30kg近くも減量したり、体を張った役作りで以前から知られていますが、本作でも20kg近く増量したということででっぷりしたお腹と禿げ上がった頭となっていて、貫禄十分のCheneyの姿そのままとなっていました。こんなに激しく増量や減量を繰り返して内臓に大きな負担がかかっているのではないかと他人事ながら心配してしまうほどですが、本当に大丈夫なのでしょうか。

師であるDonald RumsfeldはSteve Carell、Cheneyの妻LynneはAmy Adamsがそれぞれ演じていて、彼らも実にそれらしい演技なのはさすがなのですが、このLynneの凄腕ぶりが私には印象的でした。Cheneyがここまでの人物に成り上がったのはLynneの力があったからこそ、しかしLynne一人の力ではどうすることもできず、LynneにとってもCheneyは必要だった、ということこそが私がこの作品から学んだことでした。作品の趣旨はそういうことではなかったかもしれませんが…

ちなみに本作の上映時間は132分あります。エンドロールが流れたときに「もう終わり?」と思ったら、きっとそれはまだ終わりではありません。

2016年アメリカ大統領選挙

まさかの展開かもしれませんが。

私もそれほど注目していたわけではないのですが、昨日アメリカでは大統領選挙の投票が行われ、共和党候補のDonald Trumpが民主党のHillary Clintonを抑えて当選確実となりました。この結果を勤務先で聞いて私も驚きましたが、事実は事実として受け入れるしかありません。

Hillaryは言わずと知れた第42代大統領Bill Clintonの婦人ですが、その後上院議員、Obama政権の国務長官を歴任してきたバリバリの政治家です。もしも当選していたら初の女性大統領になるということでも注目されていましたが、これが逆に仇になり、これまで2期続いた黒人大統領に続いて今度は女性、ということを嫌った白人男性の票がTrumpに流れたという話もあります。また、ファースト・レディの時から国政にだいぶ口出ししているように見えたので、女性でも保守的な人にはあまり良く思われていなかったのではないでしょうか。

一方Trumpの方は問題発言があったりもしましたが、アメリカが世界のすべて、強いアメリカこそ正義という人々にとっては耳障りの良いことをいっていたこともあって特に低所得者層の人気が高かったようですね。アメリカ人でも私や他の日本人の友人らと接しているような層の人々でTrump支持の人というのはほとんどいなかったようなので、同じアメリカでもくっきり別れた2つの世界があるような印象です。開票結果を見ても東海岸と西海岸の州ではHillary、中央部ではTrumpと見事に分かれています。

しかし結果が出た今、実はTrumpでもそれほど酷いことにはならないのではないかと私は思っています。実際、勝利演説ではかなりまともなことを言っているようですし、結局のところアメリカという超大国はたった一人の力でそんなに大きく舵を切れるものではなく、政権運営はどれだけ優秀なスタッフを揃えることができるかというところにかかっているはずです。これまで政治家としての経験のないTrumpの能力は未知数かもしれませんが、ビジネスにかけて超一流であることは間違いないわけで、ビジネスマンらしく思い切った経営手腕を発揮してくれるかもしれません。

それにしても、相当な僅差であったというのはかなり健全に思われます。どちらに転んでもおかしくないほど、ほぼ同程度にそれぞれ支持されているというのは、一気に民主党に傾いたり大きく揺り戻したりする日本よりもよほどバランスが取れています。もはや日本人は懲りてしまったかもしれませんが、日本にも本当に政権担当能力のある政党がもう一つあったらと思いますね。

大統領の料理人

もっと光が当てられてもいいような。

アメリカの大統領府といえば誰もが知っているホワイトハウスですが、この建物はアメリカの頂点にあたる行政府としての機能を果たしているだけではなく、大統領一家の住居でもあります。そして住人がいる以上、その人々の食事も必要になるわけですが、さすがにファーストレディが家族の食事を作るなどということはごく稀なことで、それ専門のスタッフとしてのシェフが必要です。また、大統領一家の食事だけではなく、このシェフには国賓を招いての晩餐、各種パーティやイベントの際に食事を提供するという重要な仕事もあります。

完全に裏方となる仕事ですが、世界的にも非常に特殊な環境であり、どんな様子なのか誰しも興味の湧くところではないでしょうか。昨日は「リビング・ヒストリー – ヒラリー・ロダム・クリントン自伝」について書いたところですが、Clinton政権の2年目からBush Jrの1期目までの11年ほどにわたって、このホワイトハウスのシェフを務めていたというWalter Scheibの著書「大統領の料理人 – 厨房から覗いたホワイトハウス11年」という本をちょうど見つけたので、これに続いてホワイトハウスの内情を別の視点から見てみるのも面白いのではないかと読んでみました。

大統領の料理人
翻訳:田村 明子ベストセラーズ (2008/05/16)ISBN/ASIN:4584130752
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ホワイトハウスのシェフというのは政府の職員であって、行政スタッフとは異なり大統領からの直接的な指揮権はないのだそうですが、Scheibの採用に際してはファーストレディであるHillaryの意向が非常に重視されていたようです。まあ、日常的にそのシェフの食事を口にするのは他の誰よりもファーストレディが最も多いわけで、当然といえば当然のことです。

また、State Dinnerと呼ばれる国賓を招いての晩餐は、国家を代表してその国賓をもてなすことになるわけで、提供される料理の味もさることながらメニューの選択も非常に重要な意味を持つものになります。Scheib以前、すなわちClinton政権以前のシェフは皆フランス料理中心となっていたそうですが、Hillaryはこれを最新のアメリカン・キュイジーヌに改めたいと考え、それがScheibの料理に対する考え方と一致し、採用に繋がったということのようです。

Clinton政権では頻繁にディナーやパーティが催され、そのたびに招待客はどんどん増え、またメニューも新しいものも歓迎されるなどシェフとしてもチャレンジングで、苦労の中にも喜びのある日々だったようです。しかしこれがBush政権に変わると一変し、社交的でないBushはパーティの回数、招待客とも減り、メニューは保守的、時には特定ブランドの既製品を要求されたり、最終的には細かいメニューや盛りつけなどまでスタッフに口出しされるという屈辱的な職場となってしまったのだそうです。

もともとHillaryに抜擢してもらったという恩があってひいき目に書かれている部分もあるのかとは思いますが、それを割り引いてみたとしてもこの落差はかなり激しく、Bushの下でモチベーションを維持するのは並大抵のことではなかっただろうと思います。この本に登場するBushは私が感じる印象そのままのようなのですが、そう思うとどうしてこの人が大統領として2期も支持されたのかということが不思議でなりません。まあBushが大統領でいることで得をする人もいたということなのでしょうが…

ちなみに、序文に

私にとっては簡単な選択だった決意があります。本書にはファーストファミリーのいわゆる「スキャンダル」のようなもの、二人の大統領とその家族に関する政治的、個人的な問題に関する感想は、書かないでおこうということです。その理由は三つあります。大統領一家とホワイトハウスのスタッフの間には信頼関係の絆があり、私はその信頼を覆すような行為をする気はないこと。第二に、私の職業はシェフで、政治は門外漢であること。そして第三に、そんなことは私が首を突っ込むようなことではないからです。

と書かれている通り、Scheibが大統領一家について直接何か感想のようなことを言っているところはなく、上記はあくまでScheib自身の仕事の内容から私が感じたということですので、人によってはその感じ方も違うかもしれません。