プレイ -獲物-あながちただの虚構では言い切れないかも…

もともと読書は好きで本はよく買う方だと思う私ですが、毎回毎回普通に買っていてはお金もかかるというのでなるべく文庫が出るのを待ったり古本で買ったりということをしていました。しかしそれでも読み終わった本の置き場所というものも一つの問題で、いくらなんでも捨てるわけには…と古本屋に売っても二束三文でもったいないということで、結局二度と読みもしないのに家に貯まっていく一方です。しかし、本好きな子供と最近一緒に図書館に借りに行くようになって、これらの問題が一気に解決してしまうことになり喜んでどんどん読み漁っています。とはいっても読む時間は限られているので大したペースではないのですが、2週間の貸出期間以外には制約もないので気軽に読めるというのが嬉しいです。

ということで今日はMichael Crichtonの「プレイ -獲物-」を読み終えました。「クライトン」というのがこういう綴りだったとはつい先ほどまで私も知りませんでしたが、Michael Crichtonといえば「ジュラシック・パーク」や「タイムライン」など映画にもなった小説や、映画「ツイスター」の脚本、TVドラマシリーズ「ER緊急救命室」の製作総指揮・脚本などで知られる超売れっ子作家です。この「プレイ」は2002年に出版された最近の作品ということです。

プレイ-獲物-(上)
著:マイクル クライトン
早川書房 (2003/04/11)
ISBN/ASIN:4152084863
プレイ-獲物-(下)
著:マイクル クライトン
早川書房 (2003/04/11)
ISBN/ASIN:4152084871

この作品で主題となっているのはナノテクノロジーとバイオテクノロジー、そしてソフトウェアテクノロジーの3つの融合・相互作用のようなものです。ただ、これについては冒頭ではっきり示されるのですが、しばらく読み進めるまではそれがどういう意味を持つのかよくわかりませんでした。それぞれのテクノロジーについては現時点でもかなり高いレベルに到達しており、それぞれを組み合わせることで複雑な効果を持たせることが可能、というのは事実でしょう。本書の場合にはここにちょっとした飛躍があり、かなり「ありえない」話になっているのですが、これは私がある程度これらの技術に足をつっこんでいる人間だからそう思うのであって、一般の人が読んだ場合にはかなり現実味のある話に読めるのかもしれません。

とするとこれは相当恐ろしい話です。本で読んでいる限りでは堅苦しい技術論が多いせいかSF作品であることは間違いないのですが、これを映画化した場合にはただのSFではなく「SFホラー」というカテゴリーになるでしょう。何といってもサブタイトルにある「獲物」というのは人間のことも含んでいるのですからね…精神的な恐ろしさと、映像的なグロさとを兼ね備えたいっぱしのホラー映画になること請け合いです。ただアレを映像化して嘘くさくならないようにするのも難しいかもしれませんが…

Michael Crichtonは押しも押されもしない一流作家ですから、ひょっとしたら翻訳のせいなのかもしれないのですが、どうもこの本は読みにくいような気がしました。テクノロジー的な背景を一生懸命説明しようとしてくどくなってしまっているので、私は面倒になってその辺りは斜め読みになってしまいました。どうせフィクションで技術の裏付けなどないのですから、難しい専門書を読んでいるような気にはさせないで欲しい、ということです。とはいっても設定や展開、物語の運び方などはとても面白かったと思うので、贅肉をそぎ落としてもうちょっと短い話にするといいのかもしれません。

ちなみにタイトルの「プレイ」というのは遊びでも祈りでもなく、「捕食」を意味するpreyという単語です。トレッキーなあなたならロミュランクリンゴンBird of Preyでお馴染みかもしれませんが、このbird of preyというのも「捕食する鳥」すなわち猛禽類を意味する一般の言葉です。またこのpreyというのが難しい単語で、自動詞として使われるときは捕食する側を表すのに、名詞として使われると餌食になる側を表すこともあるということで、本書のタイトルも微妙なニュアンスが隠れているような気がします。この辺りは日本語訳するのも難しいでしょうね…