同列に並べられるような国ではないような。
つい最近大病説が流れたり、実は数年以上前に既に亡くなっていて実は小泉首相(当時)が会ったのも影武者だったなどというまことしやかな噂も耳にしたりと、メディアの前に姿を現さなくても注目を浴びる北の将軍様こと金正日総書記ですが、実際のところ彼は健在なのでしょうか。今年行われた建国60周年記念の軍事パレードにも出席しなかったというのは並大抵のことではないようにも思われますが、私たちの常識が全く通用しそうにない彼の国のことですから、憶測が憶測を呼ぶばかりで真相は闇の中といったところです。一説には跡継ぎに長男の金正男を担ぐ一派と金正哲を推す軍部との間で対立しているということですが、仮にも国名に民主主義を掲げる一国の元首が世襲になりそうだというのはやはり不思議な国です。
そんな近くて遠い国とも言われる朝鮮民主主義人民共和国とまだフセイン政権下にあったイラクとに渡航した際の旅行記である「悪の枢軸を訪ねて」という本を見つけたので、イラクはともかく北朝鮮の様子はどうも気になってしまうので読んでみました。
書名の「悪の枢軸」というのは言うまでもなくG.W.Bush米大統領がイラン、イラク、そして北朝鮮の3カ国を指して、一般教書演説の中でテロ組織を支援していると決めつけて呼んだところから来ているわけですが、立場を変えればむしろアメリカの方こそ悪の権化ということになるわけで、著者もわざわざそんな悪の巣窟のようなところに好んで行ったりはしません。
何しろ著者の雨宮処凛という人はもともと右翼の活動家だった人で、反米ロックバンドのライブ等を通じて活動していたそうです。今時そんな人が本当にいたのかということにさえ私は驚きを隠せませんが、心の弱い人にとってはこういったことが拠り所になってしまうものなのでしょう。そんなわけで、この雨宮氏が北朝鮮やイラクに渡航することになったのもその活動を通じてのことだそうです。
本書に書かれているのは北朝鮮になんと5回、そしてイラクには1回訪れた際の旅行記であるのですが、これらの国について実際に体験したことがそのまま、あまり凝らない自然な表現で綴られているので何となく信憑性が高いように感じてしまいます。本当なら民族主義活動家の語る北朝鮮事情など割り引いて聞かなければいけないところのような気がしますが、これ以上割り引いたら一体どんな酷いところなのかというようなことになってしまいます。
北朝鮮にはよど号事件の犯人グループとその娘たちに会いに行くのが主目的となっているのですが、私の生まれる1年前のこの事件が当時日本中を大騒ぎさせたことを思うと、彼らがあまりに悪びれない様子なのが本当に不思議なものです。あの事件に一体どんな大儀がかかっていて、あの結末でそれは成就することができたのでしょうか。
一方イラクについてはバビロン音楽祭というかなり盛大な音楽祭への出演を求められて渡航したということなのですが、それがイラクとのパイプを持っていた一水会の紹介であり、音楽性は二の次で反米バンドだからということでの出演というのは、日本代表としてはいかがなものかと…それは今さらなので気にしないこととすれば、イラクについては政治事情などについてもしっかり説明されていて、単なる物見遊山の旅行記に過ぎない北朝鮮編とは大きな違いです。
どちらもなかなか情報の入ってこない両国ですし、特にイラクについてはフセイン政権が倒された今はもう当時の事情は貴重なもので、非常に興味深いないようでした。本書を読んだ限りでは北朝鮮と比べればイラクの方はかなりまともな国のように思えますが、今の不安定なイラクは当時とは比べものにならない混沌とした状況なのでしょうね。まあ私は怖いのでどちらも自分で行ってみたいとは思えませんが…