Wikipedia今はもう当たり前の存在ですが…

つい先日10周年を迎えたというGoogleがこのインターネットの世界に革命を起こした存在の一つであるということはあまり疑いのないところではないかと思いますが、それと同じくらい、もしくは人によってはそれ以上にインターネットの利便性と利用価値を向上させたのがWikipediaではないでしょうか。私もこのブログで頻繁にリンクを張り、また個人的にも調べ物にはかなり便利に使わせてもらっています。

Wikipediaの一番の特徴は誰にでも編集ができる”WIki“というシステムを利用していて、幅広い知識を職業や興味・関心の異なるあらゆる種類の人々の間で共有できるということにあるでしょう。それは長所であると同時にまた短所でもあるのですが、そのあたりについてもうちょっと知ってみようということで「ウィキペディア革命 – そこで何が起きているのか?」という本を読んでみました。

ウィキペディア革命―そこで何が起きているのか?
翻訳:佐々木 勉
岩波書店 (2008/07)
ISBN/ASIN:4000222058

この本はPierre Assoulineという作家・ジャーナリストでありパリ政治学院の講師であるフランス人と、その5人の教え子によりまとめられたものです。私はあまりフランスで書かれた本に触れる機会がなかったのですが、日本語訳されたものでもやはり少々独特なところがあります。

基本的にコンピュータ関係の技術の多くはアメリカが発祥の地であるということもあり、技術用語はほとんど英語による表現が一般的なものとなっています。しかし母国語にこだわりを持つフランス人のことですから、フランスでは技術用語もしっかりフランス語訳されていて、本書ではそれを日本語訳しているのでところどころで一般的でない用語が使われることになってしまっています。例えば、英語のadministratorが元であるadminを「アドマン(admins)」とわざわざフランス語読みの表記にしなくても…と思うのですが。

また、紹介されている人物や論文、調査結果などの多くがヨーロッパのものであるということもいかにもフランスらしいところで、アメリカに対する対抗意識が見え隠れしているように感じられてなりません。まあただ単にフランス人にとってはアメリカよりもイギリスなどの方が身近であるというだけのことで、私が穿ちすぎなのかもしれませんが。

内容的には、レポートをWikipediaのコピペで済ませてしまい、調べ物をしなくなった最近の学生への嘆きから始まり、Wikipediaの記事が誰にでも書き換えできることからの信頼性への疑問、荒らしや誹謗中傷、情報操作の問題などを取り上げ、全体としてWikipediaに対し批判的な姿勢となっています。結局、結論としては「調べ物のとっかかりとして、また参考として利用する分には便利なので気を付けて使いましょう。」ところのようなのでどうにも締まらないのですが…

また、巻末というにはあまりにボリュームが大きく、全体の1/3ほども割かれているのですが、解説として「ウィキペディアと日本社会 – 集合知、あるいは新自由主義の文化的論理」というタイトルで木村忠正氏による文章が載せられています。しかし、一体何を解説しようとしているものなのか、Wikipediaを主題としている以外本文とは全く無関係な内容の独立した文章になっています。これはこの本に必要なものだったのでしょうか? 確かに本文だけでは(物理的に)薄い本になってしまうので、水増ししたかったということなのでしょうか。私には蛇足であるとしか思えませんでした。

まあ結局、フランス語の名刺がそのままカタカナで沢山出てきて読みにくかったのと、解説のせいで余計に何が言いたいのかわかりにくくなってしまっていますが、Wikipediaに対する問題提起としてはこんなものかもしれません。私もWikipediaに全幅の信頼は置いていませんし、疑ってかかることも必要だと思っていますが、それを誰もがわかっているかというとそうではないでしょうからね。