Michael Mooreこういう立場の人もいるということで。

ボウリング・フォー・コロンバイン」や「華氏911」といったプロパガンダ色の濃いドキュメンタリー映画の監督として日本でも有名なMichael Mooreですが、そもそもは社会派ジャーナリストとして活動していました。発するメッセージが強烈なので、深く共感する人もいれば強く反発する人もいるのではないでしょうか。そのMichael Mooreの著書としての代表作である2002年の「アホでマヌケなアメリカ白人」を読んでみました。

アホでマヌケなアメリカ白人
原著:Michael Moore
柏書房 (2002/10)
ISBN/ASIN:476012277X

自らもその一人であるWASP(White Anglo-Saxon Protestant)を中心とするアメリカの支配階級を批判する内容ですが、特に現Bush政権の成り立ちを「不正選挙」として強く非難しています。といってもこの2000年の大統領選挙の時、Moore本人は緑の党から立候補していたRalph Naderを支援していたのでBushよりはGore共和党よりは民主党の方が「マシ」ということであって、この著書の中では民主党やGoreについても批判的な姿勢を取っています。

本書のタイトルは「~アメリカ白人」ということにはなっていますが、結局のところ批判の対象となっているのは金と権力を持つものばかりが優遇されるアメリカの「資本主義社会」そのものであり、程度の違いこそあれ現代の日本にも当てはまるようなことが少なくないのではないかと思います。「黒人の白人化も進んでいる」と書かれていますが、日本人のアメリカ人化も同様に進んでいると言っていいのではないでしょうか。戦後アメリカを手本に復興してきた国ですから、多大な影響を受けてしまったのは仕方のないことかもしれません。

ちょっと気になるのは、Moore本人が白人だからなのでしょうが、黒人を弱者の象徴としてしまっていることで、これは人種差別と言われることはないのでしょうか。実際、全般的に観れば事実と遠くないのかもしれませんが、黒人を助けなければいけないという考え方は逆に差別的なのではないかと思います。他にも地域に対する差別的記述もあり、呼んでいて不快感を覚えるような文章がところどころに見られました。

ということで、言い回しはあまり心地のいいものではないものの、もっともだと感じるところもあるので我慢しながら読んだようなところなのですが、Amazonのレビューを見ると翻訳の質の悪さに対するコメントが少なくありません。その一つには

ムーアが小学校や高校大学でのことを語っているところは、原書で4ページ勝手に削除。そして、「あまり多くを語らないけどね」などと、ムーアが言ってもいない言葉を挿入しているという悪辣さ。

とあり、それはちょっと酷いのではと私も思ってしまいます。内容的に原書で読むというのはかなり敷居が高くなりますので、それを日本語で読めるようにしてくれているというだけでも助かってはいますが、一言一句忠実にとまでは言わずとも著者の人格を変えてしまうようなことは避けてもらいたいものです。まあ私は原書を読んでみようとまでは思いませんでしたが、本当のMooreの言葉に触れたい人、または訳の酷さに興味のある人は面白いかもしれません。

Stupid White Men
著:Michael Moore
Penguin Books Ltd (2002/10/03)
ISBN/ASIN:0141011904