State of Fearどこからどこまでがフィクションなのか…

近年、夏の猛暑や暖冬だといわれる度に話題に上る「地球温暖化」という問題ですが、そもそも本当に地球は温暖化しているのか、それは人間の文明的な社会生活により排出される二酸化炭素によるものなのか、というような懐疑論も実は根強いものがあります。この問題に対して3年間の調査を経て立場を決めたMichael Crichtonが、地球温暖化をめぐる出来事を描いたフィクションのサスペンス作品「恐怖の存在」を読みました。

恐怖の存在 (上) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
翻訳:酒井 昭伸
早川書房 (2005/09/09)
ISBN/ASIN:4152086688
恐怖の存在 (下) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
翻訳:酒井 昭伸
早川書房 (2005/09/09)
ISBN/ASIN:4152086696

地球温暖化の元凶であるとしてアメリカを相手取った訴訟を支援する環境保護団体と、その団体に多額の資金援助を行っている富豪とその顧問弁護士を中心に、人為的な災害を企む環境テロリストとの戦いを描いた作品で、この中で地球温暖化に関する事実をデータと共に明らかにしています。ここで提示されているグラフなどは現実のデータに基づくものなのだそうです。

Crichtonの立場としては「地球温暖化についてはそれが事実であるのかどうかも含めてほとんど何もわかっていない」ということのようです。確かに、温暖化と言っても西暦2100年に地球の平均気温が1.8~4℃上昇するということなので、猛暑の原因が温暖化だというのはおかしな話です。本書でも書かれていますが、都市部の気温は実際に何℃以上上昇しているのかもしれませんが、それ以外の部分では変化がなかったりむしろ下降していたりするようなので、実は単に人口増加やエアコンの室外機などの社会生活による排熱が増えているだけかもしれません。二酸化炭素などのいわゆる温室効果ガスにより温暖化しているというのは理論上の推定に過ぎないのです。

Al Goreをはじめとして世の中には声高に温暖化問題を叫ぶ環境派の人がいますが、こういう人たちはそれぞれの利害があってそういう立場を取っているのだということを忘れてはなりません。それは権力や金銭、名声であったりあるいは信念であったりするのかもしれませんが、たとえ本人が正しいことなのだと思っていたとしても、本当にそれが真実であり最善であるのかということはわからない場合も多いのです。

この作品に登場する環境団体は完全に自らの金銭欲のために人殺しも厭わない悪人であるわけですが、そこまで極端でないにしても現実にも某GPとかSSとか、問題のある団体はいくらでもありますから、全く荒唐無稽とは感じられないのが逆に恐ろしくもあります。まあ環境問題に対するメッセージは別としても、フィクションとしては主人公らが雲の上の存在に近いだけに現実離れした感じはしますが、緊迫感溢れる面白い作品になっているのではないでしょうか。

ちなみに私自身の立場としては、地球温暖化そのものには懐疑的ではありますが、それが事実であるにしろそうでないにしろ環境破壊は最小限にとどめるべきであると思いますので、二酸化炭素の排出量削減を目的とした省エネルギーというのを否定するつもりはありません。ただ、温室効果ガスさえ減らせばいいということではなく、代わりに何かを犠牲にするというのは避けなければならないと思います。またことさらに問題を大きく取り上げて不安を煽るようなこともやめて欲しいものです。