Fahrenheit 9/11もっともなことを言っているようでも発想はやはりアメリカ人的

アメリカの医療制度の問題をテーマにした作品「シッコ」が最高傑作とも評されている、ドキュメンタリー映画で活躍するMichael Moore監督が2004年の大統領選挙を狙って製作し話題となった作品「華氏911」を遅ればせながら見てみました。ちょうど今月、9.11から6年を迎えたところで時が経つ速さを実感したところだったので、ちょっと振り返ってみることにしたわけです。

華氏 911 コレクターズ・エディション
監督:マイケル・ムーア
ジェネオン エンタテインメント (2004/11/12)
ISBN/ASIN:B0001X9D68

といっても、この作品は9.11の同時多発テロそのものを題材としているわけではなく、その後にGeorge W. Bush政権がとったイラクへの侵攻を問題として取り上げているものです。9.11の敵アルカイダタリバン政権下のアフガニスタンに潜伏しているのであって、そもそもイラクは無関係なのではないか、ということですが、これ自体は侵攻開始当初から言われていたことですね。9.11の報復ということで始めたはずの戦争が、「フセイン大量破壊兵器を持っている」ということでそれを潰しにかかるということにすり替えられてしまいました。だいたいその大量破壊兵器(WMD: Weapon of Mass Destruction)にしたってなぜアメリカは良くてイラクはダメなのか、というのも日本人の我々にとっては理解できないところではあるのですが…ちなみに、Mooreはこの映画で反戦を訴えるつもりは特にないらしく、アフガニスタンへの侵攻については特に批判的な描写はなく、非常にあっさりと触れられているだけです。

注意しなければならないのは、この映画はドキュメンタリーの形式を取ってはいるものの、民主党支持者による反共和党のプロパガンダ映画であり、嘘はないとしても不公正な編集が行われている可能性は否定できないということです。アメリカの場合は日本人からすると異様にも思えるほど各人の支持政党がはっきりしていて、しかもそれを堂々と人前でも表明しますが、この映画の場合は共和党の大統領候補として2期目の当選を狙っていたBushを堂々と批判するための作品であったわけです。したがって、Bush政権に有利となるような証言などは取り上げられるはずもなく、穏やかにでも一方的に攻撃するような形になっているのです。この点は割り引いて観なければならないでしょう。

しかしながら、イラクの惨状を映像として目の当たりにするとテレビや新聞などの一般の報道では伝わらない戦争の悲惨さが衝撃的です。遺体や深い傷を負った負傷者の様子も遠慮無く映し出されますので、苦手な私は痛々しくて直視できないような場面も多々ありました。それでも実際に現地にいる人々はそれどころではないわけですから、彼らが無言のうちに語るメッセージに耳を傾けなければと思い、私はせめて最後までしっかりと目に焼き付けておくことにしました。私にとっては共和党だろうが民主党だろうがどうでもよく、アメリカ政府のジャイアニズムは同じように批判されるべきものですね。どうもアメリカ人の愛国心の発露としての軍役には理解できません。

反戦、反戦と言葉で言うのは簡単ですが、ただそう言っているだけでは全く伝わらないものです。百聞は一見にしかずと言う通り、映像で見せられるとその説得力は圧倒的なものです。この映画は反戦をテーマとはしていないわけですが、この映画を真に受けて共和党から民主党に乗り換えたからといって何がどう変わるのか、単に利権にありつく人々が変わるだけではないかとも思えます。そんなことよりも、素直に感じる通り戦争をネガティブなものと受け止めて、それを回避する方向に動いた方が健全ではないでしょうか。まあこれも言うだけだから簡単なことなんですけどね…