The Imitation Game - Benedict Cumberbatch as Alan Turing世の中には二種類の人間がいる。Alan Turingを知っている人と知らない人だ。

正月三が日は予期せず映画三昧のようになってしまいましたが、3日に観た今年三本目の映画はイギリスで非常に人気があるらしいBenedict Cumberbatch主演の「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」です。Cumberbatchといえば昨年11月に婚約を発表しましたが、The Times紙の慶弔広告欄に掲載して告知するという非常に古風で粋なセンスに私も感銘を受けたものです。

それはさておき、この作品はコンピュータに関わる者なら知らぬ者はいないはずの、知らなければモグリだと私は思っているAlan Turingの生涯を描いた、実話を元にした物語です。英語版Wikipediaを見ると史実との違いがいくつも挙げられていますが、あくまでこれは創作であり、話が面白くなるように作られているのでしょうから仕方のない事でしょう。親族ら関係者にとっては黙って見過ごすことはできないのでしょうが、あくまでお話です。

Turingの功績としては、計算機科学を学んだ者にとってはチューリングマシンに名前が残る通り、アルゴリズムを実行するマシンの形式的記述、すなわち現在まで続くコンピュータの理論的基礎を築いたことにあると言えます。しかしこの作品で主に描かれているのはそれではなく、ナチス・ドイツが用いていた暗号「エニグマ」の解読に関わる手法の開発です。
The Imitation Game - Keira Knightley as Joan Clarke
おおよそストーリーはWikipediaの「アラン・チューリング」にもあるTuringの生涯の通りですが、Turingの少年時代、大戦中、最期の3つの時期が代わる代わる描かれています。いじめから救ってくれたChristopherとの友情と恋、エニグマの解読への没頭と同僚Joan Clarkeとの交わり、盗難から逮捕・処罰までという具合です。JoanはKeira Knightleyが演じていて知性を備えたとても魅力的な女性に見えます。実際はもうちょっと地味な女性だったのかもしれませんが、これもお話ですからね。また関係ありませんが、スター・ウォーズ エピソード1Padmé Amidalaの影武者Sabéを演じていたのはKeiraだったということを私は今知りました。写真を見てもちょっと分かりませんが。

Alan Turingを演じるBenedict Cumberbatchは流石に素晴らしいですね。本物の「演技」というものを久しぶりに観たような気がします。かなり気難しく、感情表現の決して豊かではないTuringのその感情をいかに表現するかというのは本当の演技力がなければできないことなのではないでしょうか。私は「ホビット」のスマウグを除けばスター・トレック イントゥ・ダークネスKhanとしてしか見たことがなかったので、どうしてそこまで人気があるのか理解できなかったのですが、Sherlockなども観なければという気になってきました。

タイトルの”The Imitation Game”というのは何のことなのかと思いながら見ていたのですが、実はまさにチューリングテストのことだったようです。対話相手が人工知能であるかどうかを判定するためのテストで、Turingの名前はここでも残っているのです。チューリングマシンの計算可能性理論、エニグマの解読機bombe (劇中ではChristopher)の設計における統計的暗号解読手法、チューリングテストの人工知能とはそれぞれ異なる専門分野ですが、これらに名を残す偉大な研究者を41歳という若さで失うことになったのは計算機科学分野だけでなく、人類の進歩における大いなる損失であったのは間違いないでしょう。Turingの名誉は2009年の首相の声明と昨年の恩赦によって回復されたとみなされるかと思いますが、それは気休めにしかなりません。そういう時代だったということですが、大変悲しいことです。