Codex何でもミステリーの題材になるものですね

私もこうして本を読むとそれについて簡単にブログに書いたりはしていますが、職業として「書評家」を名乗るというのはなかなか大変なものではないでしょうか。基本的にはこれから読む人の興味を削いではならないので当然ながらネタバレ厳禁ですし、それでいて本を読み終わった人がその書評を読んでなるほどと思える意味のあるものでなければなりません。また、本を読むというだけでも時間のかかるものですし、そこから書評を導き出すための情報収集も必要になるわけですから、かなり手間暇のかかる仕事でもあるでしょう。さらに書評を読む人というのは文章を読むことに慣れ親しんだ人がほとんどでしょうから、書評自体にも相当の文章力が求められることは間違いありません。これはとても私にできる仕事ではありません。

今回私が読んだ「コーデックス」という本の筆者、Lev Grossmanという人はTimeのレギュラーの書評家で、その他The New York TimesEntertainment Weeklyなどでも活躍している人だそうです。そんな人が書いた2冊目の小説だということなのですが、日頃他人の書いた本についてあれこれ言って商売にしている人の書いたものなのですから、並大抵のことではないだろう、というか、良く出す気になったなあというようなものです。

コーデックス
著:レヴ グロスマン
ソニーマガジンズ (2006/03)
ISBN/ASIN:4789728331

さて、「コーデックス」というのはMPEG-2H.264といった符号化方式コーデックの複数形…ではもちろんなく、「写本」を意味するCodexのことです。巻物と印刷本の間に位置するもので、主に羊皮紙に手書きで書き写されたものを綴じて表紙を付けたものがコデックス(コーデックス)といわれるもののようで、それまでの巻物に対して

平面的で場所をとらない、特定の箇所を開いて読みやすい、表にも裏に書ける、表紙をつけて中身を守ることができる、持ち運びが楽

という数々のメリットがあったために取って代わったということです。

それはさておき、本書はどういうわけか幻のコデックスを探し求めることになった投資銀行のアナリストを中心に、彼が助けを求めることになった中世学を研究する学生、彼の学生時代からの友人などの間で展開するミステリーということになっています。ただ、ミステリーといっても実際には作品自体の方が何だか謎めいていて、途中では現実世界とゲームの世界とが重なり合っていたりで不思議な感覚です。14世紀の古書を追い求めるという歴史の世界に踏み込むような内容と、現代のハッカーらの世界が絡み合うというのが独特ではないでしょうか。

また、終盤は大いに盛り上がるのですが、結末はちょっと唐突な印象があってやや消化不良気味なのが残念です。結局何だかよくわからないまま終わってしまい、主人公も「そこで諦めるのかよ!」というような…まあ終始淡々とした態度の主人公なので、辻褄が合っていないわけではないのですが、読者は取り残されたような気分になってしまいます。

まあ結局「言うは易く行うは難し」ということなのか、手厳しい(かどうかは知りませんが)書評家が書いたからといって素晴らしい作品になっているのかというとそういうわけでもなく、つまらないわけではないけども傑作というわけでもない、というような所に落ち着いてしまいました。帯には「イギリスで話題沸騰のベストセラー! 幻の奇書を追え!」なんて書いて煽ってあるのですが、まあ嘘ではないかもしれませんが…たださすがに英米文学を学んだ書物のプロですから、中世の書物に関する蘊蓄はなかなか興味深いものがありました。14世紀からそんな本があって、しかもそれが図書館や個人の手元に残っているというのにも欧米文化の懐の深さを感じてしまうところです。

ところでほとんど関係ないのですが、図書館で本を探すときにもいつもわからないのがなぜ「英米文学」という括りになっているのか、ということです。イギリスとフランス、ドイツその他は区別する必要があるのか、イギリスとアメリカは一括りでいいのか、ということなのですが、これは言語による区別なのでしょうか。だとすると日本語訳されてしまえばほとんどどうでもいい話で、一般の図書館で区別する必要はあるのでしょうか。「あの本を書いた人は何人なのか」ということを知らないとどの棚を探したらいいのかもわからないのでちょっと不便です。まあ、今は図書館でもPCで検索できるようになっているので、署名さえわかれば著者と書架もすぐにわかるのでその手間さえ惜しまなければいいのですが…