エアフレーム -機体-飛行機は自動車よりも安全といいますが…

「どうしてあんな鉄の塊が空を飛ぶのか理解できない」と飛行機が苦手な人は言いますが、子供の頃に飛行機に乗る機会が多かった私はある程度乱気流で揺れてくれないと物足りない気がする…というほど安心しきって乗っています。とはいえ、私もどうして飛ぶことができるのかを理屈では理解していても本当に納得しているというわけではなく、そんなことを疑っても仕方がないと開き直っているだけのようなものです。

その飛行機の機体は実際には鉄ではなくアルミの塊なわけですが、自動車と比べると格段に厳しい環境で相当高度な信頼性を維持しなければならず、かなり高度な技術と経験とコストがつぎ込まれたものとなっているはずです。今回読んだのはある飛行機の事故をきっかけにその機体を製造するメーカーの人々が巻き込まれた出来事を描いたMichael Crichtonの作品「エアフレーム -機体-」です。

エアフレーム―機体〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
著:マイクル クライトン
早川書房 (2000/09)
ISBN/ASIN:4150409625
エアフレーム―機体〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
著:マイクル クライトン
早川書房 (2000/09)
ISBN/ASIN:4150409633

主人公は夫と離婚し月に1回1週間娘を夫に預ける生活をしている30代女性のCasey Singletonです。Caseyは航空機メーカーのNorton Aircraftで品質保証部の副部長を務めているのですが、このNorton Aircraftの製造した旅客機の1機が太平洋の横断中に「激しい乱気流」に巻き込まれ死者3名という事故を起こしたことで、その原因究明とマスコミへの対応を任されることになります。この「乱気流」というのは実際には飛行中のあらゆる不安定な挙動を示すらしく、機体の不具合によるものも含まれるということのようです。

これだけであれば技術よりのシリアスなストーリーになるのですが、マスコミが世論をかき立てようと半ば悪意を持って取材を書けてきたり、社内の政治的な陰謀もあったりしてなかなか多才なドラマを見せてくれるのはMichael Crichtonならではといったところでしょうか。航空産業という専門的分野についても細かく描写されていて、なかなか一般人には触れることのない世界を見せてくれるような楽しさもあります。

途中で誰かが殺されてしまうなどの派手さは一切ないのですが、最後には思わぬ結末が待っていて、場面転換が細かいためテンポが良いということもあり、私は一気に読み切ってしまいました。まあ読み終わったあとで心に残るようなものは特にないのですが、娯楽映画を観るような感覚で楽しむには良いのではないでしょうか。