クルム伊達公子とシュテフィ・グラフ喜ばしいやら嘆かわしいやら…

技術はさておき大学時代にテニスサークルにどっぷりつかっていた頃の私にとって、プロテニスプレイヤーの伊達公子といえばアイドルのような存在でした。テニスの世界ではもちろん、野球やサッカー、ゴルフなど他のスポーツでも今ほど海外で活躍する選手がいなかった当時、WTA(女子テニス協会)の世界ランクで最高4位にまで登りつめ、トッププレイヤーの一員として世界に認められていたというのは他に類を見ないことでしたが、1996年に引退を決意、その後子供達にテニスの楽しさを教える活動を続けていました。

その彼女が12年のブランクを経て再びプロのテニスプレイヤーとしての活動を再開する、と報じられたのは衝撃的なニュースでした。復帰に際して

若い選手の刺激になりたい。私の成績を追い抜く選手が出てほしい

と語っているそうですが、それなりに通用するという判断がなければできないことです。彼女のあとは杉山愛が継いで日本の女子テニス界を引っ張っているかと思いますが、男子では錦織圭という新星が話題となっているのに、女子はその後に続く選手がいないということに危機感を抱いたのでしょうか。

伊達選手は2001年にドイツ人カーレーサーのMichael Krummと結婚したため本名「クルム伊達公子」での登録となっていますが、現在復帰後初参戦中の大会「カンガルーカップ国際女子オープン」では予想以上の大変な活躍を見せており、シングルスもダブルスもついに明日の決勝戦にまでたどり着いてしまいました。近年の実績がないため予選からの出場となっているのですが、これまで10戦全勝、日本ランク3位、世界ランク80位の第1シードの中村藍子まで破ってしまい、誰もがここまでの活躍を予想したわけではないでしょう。私もこの大会の結果が出たところで取り上げようと思っていたのですが、まさか決勝まで進出してしまうとは思いませんでした。

私が伊達選手に特に関心を持っている理由の一つは、私と同い年であるということもあります。すっかり運動不足の私とは全く違うにしても年齢的なハンデはあるはずなのに、それでも30代後半の選手がここまで通用してしまうというのは手放しで喜んでいいのでしょうか。伊達選手も嬉しい反面、不甲斐ないような心中複雑な思いがあるのではないかと思います。まあ今回の現役復帰のためには相当なトレーニングを積んで身体を作ってきたそうなので、そこに技術と経験が加わればこれだけの強さとなるのかもしれませんね。

また、今回の復帰にあたってのインタビューの中で、1996年の引退当時はテニスが好きではなかった、というのはちょっとしたショックでした。あくまで仕事として取り組むようになってしまっていたのかもしれませんが、今年3月のSteffi GrafMartina Navrátilováとのエキシビションマッチをきっかけにテニスの楽しさを再認識して復帰を決意したということです。この二人と対戦するために入念な準備を積んだ甲斐あって勝利したというのはやはり嬉しかったのですね。

やはり体力的に通用するものではないでしょうから、WTAの世界ツアーに参戦するつもりはないということですが、日本国内の大会で活躍し、選手としてテニスの楽しさを伝えてもらえればと思います。ただし、伊達選手があまり活躍するようでは日本の女子テニス界の未来は明るくないので、彼女を打ち負かす選手が早く出てくることも期待したいところです。まあそれよりまずは明日の決勝戦、どういう結果となるかが楽しみですね。