会津磐梯山はるばる行った甲斐が十分すぎるほどありました

先の3連休の国宝・重文をめぐる旅の2日目は、真冬で前日には東京でもそこそこの大雪が降ったというのに東北地方にまで足を延ばして会津若松に行ってきました。関西からはるばるやって来るその一番の目的は雑誌Brutus Casa9月号特集「日本建築、デザインの基礎知識Part 2。」で紹介されていた「会津さざえ堂」をぜひこの目で見てみたいということだったのですが、スキーでもないのに冬の東北を訪れるというまたとない機会なので色々と見て回りました。

天鏡閣まず最初に訪れたのは明治41年に建てられた、有栖川宮威仁親王の別邸であったという「天鏡閣」です。猪苗代湖の湖畔から数百メートル山側に上ったところに建つ建物ですが、この日は60~70cmの積雪で辺りがひっそりと静まる中、晴れ渡った青空の素晴らしい光線に照らされて実に美しい佇まいでした。真っ白な雪景色と青空のコントラストの中で白い建物がますます映えます。新緑に囲まれる姿も見事なものなのではないかと想像されますので、ぜひその頃にももう一度訪れたいものです。重要文化財に指定されるこの建物は内部も公開されており、当時の皇族の暮らしぶりの一端を伺わせる見事な家具や調度品を見ることができます。特に撞球室なんていうのはちょっと浮世離れした感じがしますよね。

猪苗代湖の鴨さて、次は猪苗代湖の湖岸から美しい磐梯山の写真でも撮ろうと道路へと降りていったのですが、湖岸の駐車場やその周辺が妙に賑わっています。次の瞬間、水辺に目を移した私は思わず驚きの声を上げてしまったのですが、そこには夥しい数の鴨とそれに混じって数十羽の白鳥が、人の与える餌に群がっているのでした。これは思いがけないものだったのですが、猪苗代湖は白鳥の飛来地としてちょっと有名だったようですね。湖畔ではパンの耳を一袋100円で売っている人がいて、これを買ってあげている人もいれば自宅から持参したような人もいるようでしたが、相当な数の鴨がいたのでいくらやっても一向に足りないのではないかというくらいで、かなり食いつきが良く一緒に行った後輩Mの2歳の息子Y君もこれは楽しかったようです。

極太手打ちチャーシューメン鴨や白鳥を相手にひとしきり戯れたあと、昼食の時間も大幅に過ぎて2時を回っていたのでご当地ラーメンのハシリでもある喜多方ラーメンを食べようということで、本来の目的地からは離れることにはなりますが喜多方市の方へ向かうことにしました。喜多方には120件ものラーメン店がひしめいているということで店選びには迷うところなのですが、都合のいいことにMの車に積まれていた全国各地のラーメン店を紹介した本はMの経験的に地元の評判に近い評価となっているということだったので、この本を参考に「食堂なまえ」という名前の店に行ってみました。住宅地の中の細い路地に面したかなりわかりにくい場所でしたが、それだけに地元に密着した知る人ぞ知る名店なのではないかと期待が高まります。

元々喜多方ラーメンというのは澄んだ醤油ベースのあっさりしていて懐かしい感じのするスープに縮れ麺という組み合わせのものが一般的ですが、この店の看板メニューらしい「極太手打ち麺」というのはその名の通りひときわ太い縮れ麺が特徴です。私が頼んだのは「極太手打ちチャーシューメン」でしたが、チャーシューメンと普通の極太手打ちラーメンの違いはチャーシュー2枚分だけのようなので、特に肉を食べておきたいという人でなければ極太手打ちラーメンで十分かと思います。しかしそれにしても、この極太麺はかなり味わいのあるもので、「食べている」という実感があり絶品です。博多ラーメンの硬めの極細麺も好きですが、これはこれでまた別の美味しさがあり、お腹はいっぱいでも口ではもっと食べたいという気になります。

さざえ堂ということでかなり寄り道が過ぎて時刻は既に4時を回ろうかというところでしたが、この日の本命「さざえ堂」にようやく向かいました。白虎隊で有名な飯森山の中腹に建つこの建物のいったい何が特徴的なのかといえば、その名の通りさざえに似た外観を持つ理由となっている、二重らせんの内部構造です。行きと帰りの参拝者のすれ違いで混雑しないようにとの配慮からの構造だそうですが、建立が1796年というその時代に木造でこれだけ複雑なものを作り上げたということが技術的にだけではなく発想的にも感銘に値するのではないかと思います。わざわざ関西から見に来るというのは建築の専門家でなければ余程の物好きだけではないかとも思いますが、これにはそれだけの価値があったと自信を持って言えます。何しろ大正天皇以降の歴代の天皇もご訪問なさっているそうですし。

結局私たちがさざえ堂を出たところで戸締まりを始めたというくらいギリギリの時間となってしまったので、このあとは予定を切り上げて東京に戻ることにしました。最初は東京に戻ってから食事をしようかとも考えたのですが、それでは10時を過ぎてしまいめぼしい店は開いていないということで、経路上にあった宇都宮で有名な餃子を食べて帰ることにしました。しかし、今が旬の餃子ですが(ウソ)、宇都宮にも餃子が食べられる店が100店近くあるらしいのでいったいどこに行くべきかがわからず、高速を降りてから書店に寄って当地の餃子店ガイドを購入し、地元の人に親しまれていそうな郊外の店舗に行ってみました。

宇都宮中国飯店の餃子向かったのは「中国飯店」というこれまた住宅地の中の普通の中華屋っぽいところだったのですが、店に着いてみると既に看板の照明は消えてしまっています。しかし、戸を開けて聞いてみるとまだ大丈夫ということで、中では地元のおじさんおばさんが店主も交えて楽しそうにビールを飲み交わしているところでした。私たちは餃子とチャーハンを注文しましたが、この店の餃子の特徴は本場中国式でニンニクを使っていないということです。ニンニク好きな私ですが、本場と同じなら美味しくないわけがありません。出てきた餃子を食べてみると、ショウガがよく効いていてそんなことは忘れるくらい美味しいものでした。有名店「みんみん」の餃子も美味しいのでしょうが、こちらはこちらで大満足ですし、人の良さそうな店主とお客のおばさんたちも愉快で楽しいひとときでした。

ということで、長い長い一日でしたが、この日も日帰りとは思えないほど充実した旅でした。というより、3日間の旅行の中のたった1日とは思えない濃い内容だったのですが、2泊くらいしてもいいくらい見どころ遊びどころは他にもありそうなので、次はぜひ家族で泊まりがけで訪れたいと思います。まあ冬はスタッドレスなしでは無理ですから、その時は夏休みということになるでしょうか。また違った季節というのもいいでしょうが、その時は白鳥はいませんね。