RJ-45一見正論と思わせてしまうテクニックは流石というべきか。

当時は毎日新聞を購読していた昨年の正月、掲載されていたネット社会批判の特集記事「ネット君臨」について書いていますが、これは「年間企画」なる毎日新聞社として

その年に特に重要で、あるいは今後大きな社会的テーマになるであろう問題を取り上げる大型企画だ。今の時代とは何か。それと徹底的に向き合う記事と言っていい。

と位置付けているらしいものだったのだそうです。2007年は「インターネット社会」というものをテーマとしたということで、その第一回としてインパクトの大きい2ちゃんねるを取り上げたのでしょう。まあ掴みとしてはうってつけだったと言えるかもしれません。

ところで今回は、7月までのこの連載をまとめ単行本化したものを見つけたので、既存マスメディアから見た「ネット社会」というのがどういうものなのかを知るために読んでみることにしました。私自身はどちらかと言えば、というより言うまでもなく「ネット側」の人間ですから、向こう側からどう見えているのかには興味があります。

ネット君臨
著:毎日新聞取材班
毎日新聞社 (2007/10/20)
ISBN/ASIN:4620318361

私は結局この連載は初回以外目にしないうちに毎日新聞の契約が終わってしまったのですが、その後も相変わらず2ちゃんねるを目の敵に叩き続けていたようですね。だいたいおかしな話なのが2ちゃんねらーというのを一つの人格のように扱っていることで、2ちゃんねるを利用する人すべてが誹謗中傷を重ねているかのような印象を与えているのはおそらく意図的なものであり、かなり悪辣な手口なのではないでしょうか。

私自身もしばしば2ちゃんねるを利用していますが、情報の取捨選択ができ、信頼できそうな情報を見極めることができれば、これほど情報量の豊富な情報源もないのではないかと思います。何かを購入しようというときに実際に使っているユーザの生の感想を何らフィルタを介することなく得ることができ、また必要があれば質問してみることも可能なのです。これは互いに匿名であるからこそ抵抗感なくできることですし、マスメディアには到底考えられないスピードがあります。

もちろんここで批判の対象となっているのは2ちゃんねるばかりでなく、職場の「ITシステム」や若者の携帯電話といった、間にネットが挟まることに夜人と人とのコミュニケーションが虚ろになる問題、ネット掲示板によるいじめ、児童ポルノなどの問題が取り上げられ、いずれも「インターネットは危険」という共通のイメージを植え付けるような記事になっています。まあ確かに新聞社にとっては危険な存在であることは間違いないでしょうが…

巻末には「識者座談会」としてジャーナリストの佐々木俊尚氏、元警察庁生活安全局長の竹花豊氏、ヤフー法務部長の別所直哉氏、ノンフィクション作家の柳田邦男氏の座談会の様子が掲載されています。この中で柳田氏は本書の序文でも危機感を煽っているように旧メディア側の立場で何らかの規制を掛けるべきと押しているのですが、一方で佐々木氏はインターネットも社会の一部でありその可能性を潰すべきでないというような立場のようです。もともと佐々木氏は毎日新聞社に所属していたそうですが、こういう人は飛び出してしまうものなのかもしれません。柳田氏ももうご高齢ですから、変革を受け入れることは難しく、「昔は良かった…」というのと同じことを言っているだけなのかもしれません。

ということで本書全体を通して言えるのは、もっともらしいことを言っているようで実は旧メディア側の一方的な主張に過ぎない、ということで、最後の佐々木氏の主張が逆に浮いているように見えるのも作戦のうちかもしれません。インターネットに疎い中高年以上の方がこれを読んだらきっと「ネットは怖い」という固定観念を植え付けられてしまうことでしょうが、注意しなければならないのは「ネット社会」なるものを形成しているのは紛れもなく現実の社会で生活を送っている人間なのだということです。単にこれまでは発言力を持たなかった庶民の声が聞こえやすくなったというだけなのですから、これに耳をふさいでいては旧メディアに未来はないのではないでしょうか。