Senatus Populus que Romanusその頃日本は…

美容院でも同じかと思いますが、床屋に行くと散髪の間に四方山話で間を持たせることになります。実は床屋に必要なのはカットなどの技術よりも話題の豊富さや話術の巧みさなのではないかとさえ思えますが、先日は「最近、休みの日はどんなことをしていますか?」という問いかけに「本を読んでいることが多いかな…」と答えたところから、床屋の主人が最近読んでいるのは塩野七生氏の「ローマ人の物語」のシリーズだと聞きました。私は全く知らなかったのですが、話を聞いているとなるほど面白そうなので、私もとりあえず第1巻「ローマは一日にして成らず」を図書館で借りてきて読んでみました。

この一連の作品は古代ローマの誕生から終焉までを全15巻に渡って書いたものですが、著者によればこれは歴史書ではなく小説であり、必ずしも歴史的事実を記したものではないとのことですが、そのためか歴史物にありがちな堅苦しさはあまり感じられず、読み物としてとても読みやすいものになっているのではないかと思います。私は古代ローマに関する予備知識を全く持ち合わせていませんでしたが、それでも歴史ドラマを楽しむことができました。

この第1巻では王政ローマの建国からイタリア半島統一まで、年号にすると紀元前753年から紀元前267年までのおよそ500年間が記されています。500年間というと相当に長い期間のことで、その調子で15巻までいくと遙か未来になってしまいますのでさすがにそんなことはありません。何しろ今から2200年以上昔のことですから、残っている情報も僅かで大雑把なものになってしまっているのでしょう。しかしこれだけの情報でも残っているだけですごいことで、同じ時期の日本のことなどはっきりしたことはほとんど何もわかっていないのではないでしょうか。

この時代のローマはいくつもの危機を乗り越えながら発展を続け、後にヨーロッパを支配する大国となるための基盤を築き上げていきます。今から2700年も前という気の遠くなるほど昔に、これほどまでに近代的な政治体制が作り上げられ、運用されていたことには驚きを禁じ得ませんが、だからこそその後長きにわたって国体を維持することができたのでしょう。またこの間に何人もの優秀な人物が現れて国を治めていますが、それぞれとても魅力的な人物として描かれています。

基本的にローマの立場からの世界観で描かれているので、ローマを美化するような形になっているところも多々あるのではないかと思いますが、これはあくまでローマに魅せられた人の書いた小説なのだということなので、あまり追及しても仕方のないことでしょう。それもちょっと都合が良すぎるような気もしないではありませんが。

まあそれにしてもこの後14巻も続いているということで、著者も年に1冊ずつ、14年掛けて刊行したという大変な力作ですが、読む方もなかなか応えるらしく、床屋の主人によると図書館の本も1巻や2巻はしおりがちぎれてなくなっていたりボロボロなのに、巻数が進むにつれてきれいになってきて、12巻あたりになるとほとんど新品なのだそうです。もちろん新しいからということもあるでしょうが、途中で脱落してしまう人も多いからではないかということです。私は構えて読み始めた割にはすんなり読むことができたので、この調子で2巻以降も読んでみようかと思っています。まあ人名や地名という固有名詞はあまり記憶に残りませんが、大雑把な流れが理解できていれば現代のヨーロッパを理解する上でも役立ちそうですよね。