仏像やっぱりカルト

「自宅マンションから徒歩で通勤」なんていうと首都圏で地獄のような通勤ラッシュに揉まれている方々はうらやましがるかもしれませんが、私は私で電車通勤がちょっとだけ羨ましかったりもします。高校時代には凄まじい混雑で有名な田園都市線に毎朝乗って懲りていますので、もちろん本当に替わりたいと思ってはおらず、座れるならばという前提で、行き帰りに本が読めるのなら羨ましいなあ…という程度です。あとは行き帰りに駅前でコーヒーを飲みたいなあ…とか、口にしたら怒られそうなことばかりですね。

まあそれはさておき、先日は久しぶりに新大阪へ出張で出掛ける機会があり、片道1時間強、電車に揺られていったのですが、その道中読んでいたのは「見仏記 親孝行編」という本です。いとうせいこう氏とみうらじゅん氏という日本の代表的カルトが二人で仏像を見るための旅行に出掛け、それをいとう氏が文章にしてみうら氏が絵を添えているというものなのですが、これが非常に面白い本でした。

見仏記 親孝行篇
著:いとう せいこう , 他
角川書店 (2002/11)
ISBN/ASIN:4048837818

見仏記シリーズはこれが4作目で、もう何度も二人で旅に出掛けて慣れた様子で展開しています。今回は「親孝行編」ということで、最初は何かのシャレか、親子の仏像かがあるのかと思ったのですがそういうわけではなく、実際にいとう氏とみうら氏がそれぞれの両親と一緒に見仏旅行に出掛けているのでした。さすがにこの二人の両親ですからそんな平凡な人ではないはずで、面白いエピソードがぽんぽん飛び出し楽しい旅の様子が伝わってきます。ただ、さすがにいとう氏も他人の両親については遠慮無しに書くことができないのか、みうら氏の両親との旅のエピソードはかなり控えめになってしまっていて、結果的にいとう氏の両親との旅の方が面白いものになってしまっているように思いました。

「仏像を見る」といっても信仰として拝みに行くわけでもなく、また美術として鑑賞するというわけでもなく、単に見て楽しむだけなのですが、旅の目的としてわざわざ見に行くわけですから、それはそれでただの物見遊山よりは気持ちがこもったものにはなっています。まあ何かを見るにあたってそんなに堅苦しく考えなくてもいいのではないでしょうか。じっと見て、「スゲー」というだけでも、数を重ねているうちに独自の審美眼のようなものが備わってくるでしょう。

この本が面白くスラスラ読めてしまうのはいとう氏の軽妙な文章と、数ページごとに挿入されているみうら氏のラフなようで書き込みの細かい挿絵がリズミカルに繰り返されているからかもしれません。この二人のコンビは絶妙で、また仲の良さというより互いの愛情のようなものさえ伝わってきます。これだけ心を許しあえる友人がいたら楽しいだろうな…などと変なことを感じてしまうほどです。

「見仏記」ということで、仏像そのものよりもそのたびの道中の方がメインになっているのではないかと思いますが、仏像についての専門家的でない着眼点がカルトな解説も楽しく、私も「仏像を見に行くというのもいいかな」とまんまと思わされてしまいました。仏像といえばやはり関西がメッカですから、せっかく近くにあるものを見ないのももったいないですよね。手始めにどんなところから行ったらいいのかよくわかりませんが、そんなときこそ見仏記が手がかりになるでしょう。とりあえず実際に見に行く前に、このシリーズの他の本を探して読むことにします。