こんなのもありだったは。
図書館の新刊コーナーで見つけた長嶋有氏の「電化製品列伝」という本、そのタイトルから想像するとこれまでの家電製品の歴史や「名器」のようなもの、あるいは著者がこれまでに巡り会った家電製品のなかで良かったもの悪かったものについて述べられているのでは…と思いきや、これは全く違いました。まえがきの冒頭にも
実はこれは、電化製品について語った本ではありません。
……いや、ウソです。電化製品について、おおいに語っているけど、電化製品に興味がない人にも読んでもらえる本です。
実はこの本は「書評」なのです(映画、漫画評でもあります)。
とあるのですが、それでは一体どういうことなのでしょうか。
これに続いてその答えがありますが、
さまざまな文学作品の、その中の電化製品について描かれている場面だけを抜き出して熱く語った、自分でいうのもなんですが、珍妙な書評集なのです。
ということです。すごいです。そんなのアリなのでしょうか。そんな切り口で語られた書評があるだなんて考えたこともありませんでした。
しかし、著者の長嶋氏はただのカルトではなくて、れっきとした芥川賞作家ですから、いたってまじめな書評となっていて、登場する電化製品が作品にとってどういう意味を持つものなのかということについてしっかりと分析・解説されています。ただ単に切り口がユニークであるだけで、決してイロモノということではないと思います。紹介されている作品の方は、電化製品が登場する必要があるのでさすがに古典というものではありませんが、様々な小説と、マンガと映画がちょっとずつとなっています。
ただの書評集であったとすれば私が手にとって読んでみるということもなかったのでしょうが、こういう一風変わったテーマでまとめられたものというのがやはり大きなポイントになっていて、そもそも書評というものをあまり読み慣れない私にも楽しむことのできるものになっていました。しかし本書はもともとポプラビーチと小説現代の連載だったそうですが、もはや電化製品などというものは生活の一部になっているので小説などにも度々登場しているはずなのに、それが印象的に使われている作品というものは案外思いつかないもので、こういうテーマで連載を続けていくというのはなかなか大変だったのではないでしょうか。やはりマニアックな視点で温めていたものがあったということなのでしょうね。