NRO本当にアメリカを動かしているのはどんな力なのか…

先週末は参議院銀選挙の投票が行われ、自民党が「歴史的大敗」を喫して安倍総裁の責任論も当然のごとく噴出する一方、民主党が第一党に躍り出ることとなりにわかに勢いづいてきています。しかしながら私が思うには自民党の自滅は年金問題という過去の失策のツケであって安倍首相の政策上の問題が原因というわけではなく、また民主党の躍進も単に自民党への批判と改革への期待が高まっただけのことであって民主党自体が評価されているというわけではないので、民主党が国民の期待に応えることができなければ次の選挙の時にはまた元通りになってしまうことでしょう。今は民主党にとってチャンスであることは間違いありませんが、勝った勝ったと喜んでいられるような状況ではありません。

ところでこの週末、私はアメリカの大統領選挙に絡んだ陰謀を描いた、「ダ・ヴィンチ・コード」の著者Dan Brownによるミステリー小説、「デセプション・ポイント」を読んでいました。「ダ・ヴィンチ・コード」を返しに図書館に行って、今度は何を読もうかと英米文学の棚を見ていて見付けたのがこの本だったのですが、今度も読みやすく場面転換のテンポがいいこともあって2日で読み切ってしまいました。

デセプション・ポイント 上
著:ダン・ブラウン
角川書店 (2005/04/01)
ISBN/ASIN:4047914932
デセプション・ポイント 下
著:ダン・ブラウン
角川書店 (2005/04/01)
ISBN/ASIN:4047914940

この作品も「ダ・ヴィンチ・コード」と同様、複数の登場人物の一人称の視点を小刻みに切り替えていくのが特徴的で、主人公というのがはっきりしません。ストーリーの中で中心的に描かれているのはレイチェル・セクストンというアメリカ国家偵察局(NRO)の職員で、このNROという組織自体日本人にはほとんど馴染みのないものですが、このレイチェルの父親が大統領候補の上院議員というところも普通ではありません。このほかにもアメリカ航空宇宙局(NASA)やデルタフォース(アメリカ陸軍第一特殊作戦部隊D分遣隊)なども登場してストーリーに大きく関わってくる、非常にスケールの大きな話になっています。これを日本の話として描くと荒唐無稽もいいところですが、実在の組織をからめて現実とフィクションとの境界を曖昧にすることで「もしかしたら…」と思えないでもない程度にリアリティのある設定になってしまうのもアメリカのすごさかもしれません。

「ダ・ヴィンチ・コード」のときは散りばめられた蘊蓄を映像で語ることが難しかったため、原作をそのまま映画化しようとしたものは説明不足で詰め込み過ぎのように感じられてしまいましたが、この「デセプション・ポイント」は映画化することを念頭に書いているのではないかとも思えるほどハリウッド向きの内容になっています。派手なアクションと非日常的なイベントの数々、サスペンスとロマンスも織り込まれていて、まるで大作映画を観ているかのような気分で私は読み進めていました。この作品の映画化権もどこかのスタジオが手にしているでしょうから、数年の間に映画化されるのは間違いないのではないでしょうか。

ただ、この作品も面白いのは間違いないのですが、それはあくまでアクション映画のような面白さであってあまり深みのあるものではありませんでした。また小刻みな視点切り替えによるテンポもちょっと頻繁すぎて落ち着きがないように感じてしまうこともありましたが、この辺りはこのあとで書かれた「ダ・ヴィンチ・コード」ではさらに熟成されたのかもしれません。とはいえ、この作品でも綿密な取材・調査による豊富な情報量は健在で知的好奇心も満たしてくれますし、爽快なアクションのスパイものなどが好きな人であれば気に入ることができるのではないでしょうか。私もなんだかんだ言いながら、結局嫌いではありません。