これはこれで。

ついに日本でも公開され、すでに非常に高い評価を得ている映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」ですが、私もこの作品は非常に楽しむことができました。やはり「恋はデジャ・ブ」との類似性を指摘している人もいるようですが、SFとしては古典的な「ループもの」と言われる一つのジャンルを、ハードSF的な世界観、ジャケットと呼ばれるエクソスケルトンのメカデザイン、新しい形態のエイリアン、といったものとうまく融合させたというのが成功の要因でしょうか。

先日も書いたようにこの映画の原作は日本のものなので、それなら日本語で読むのが良かろうと思い、文庫版を日本から購入して読んでみたのですが、ライトノベルで非常に読みやすいということもありますが、一旦読み始めたら一気に一日で読みきってしまいました。

All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)

ところで、日本の本にはが付いていることがしばしばありますが、この作品に付いている帯はひと味違いました。普通、文庫本の帯といえば高さ5cm程のものだと思いますが、この作品についていたのは全体を覆う高さのもので、要するにカバーがさらに1枚付いているようなものでした。ここにはカラーで映画のスチール写真が大きく描かれているのですが、最近はこのようなものも珍しくないのでしょうか。

さて、内容はといえば映画版とは主人公らの設定から各種エピソード、ループの理屈や結末まで大きく異なっていて、基本設定以外の部分では映画オリジナルの部分が多く、着想以外はほとんどオリジナルと言っていいのではないかというほど異なります。しかしというかだからというか、どちらの方が優れているというものでもなくそれぞれ面白く、また映画を知った上で本書を読んでみても全くネタバレにもなっておらず楽しむことができました。

主人公はキリヤ・ケイジという日本人の初年兵で、Tom Cruiseが演じていたWilliam Cageとはだいぶ年齢が異なります。もしも原作に忠実に若者が演じて映画化されていたとしたら、だいぶ雰囲気の違うものになっていたでしょう。また、ヒロインのRita Vrataskiもだいぶ若い設定になっていますが、アニメ的な挿絵や日本語で書かれた台詞のせいもあって、Emily Bluntが演じていたのとはかなり印象が違います。挿絵がなければEmily BluntのRitaをイメージしながら読み進められたかと思うとなんとなく残念な気もしたりします。

設定として面白いのは「バーストイングリッシュ」という英語の文法や単語を簡略化して速く伝えられるようにされた言語が共通語として使われているというところでしょうか。現実の社会でも英語はほぼ共通語と言って差し支えないでしょうが、作中では末端の兵士が日常的に使用するレベルにまでなっています。ここで真面目な話をすれば、簡略文法の人工言語というものでは文化が育たず伝わらないのではないかと思うので、私はそういうものには反対です。漢字を廃しただけの朝鮮語ですらいろいろ問題があるようですから、文法や単語を単純化してしまうと微妙なニュアンスなどを伝えることができなくなってしまうでしょう。

それはともかく、最後はハリウッド映画にはそぐわない切ない終わり方なので、映画で翻案されたのもむべなるかなといったところでしょう。その他の部分についても、映画には映画に映える構成というものがあるでしょうし、結果的に成功を納めることができているのでそれでよいのでしょう。原作に忠実なばかりでは脚本家として芸がありませんからね。