温泉マークやはり良心だけに頼るわけにもいかないのでしょうか。

ここ数年、食料品関係の偽装問題が多発したこともあって多くの人が忘れてしまっていることではないかと思いますが、今からちょうど4年ほど前に日本中の温泉地に報道レポーターらが押しかけ大騒ぎとなった「温泉偽装問題」というものがありました。白濁した湯で知られていた長野県の白骨温泉において、泉質の変化でその湯の色が薄くなったことを補うために「草津温泉ハップ」という入浴剤を公共野天風呂の湯に混ぜていた、ということが明らかにされたことが発端です。この報道の直後、野天風呂は一時閉鎖されて宿泊客のキャンセルも相次ぎ、白骨温泉には閑古鳥が鳴いていたはずですが、騒ぎも去った今はすっかり落ち着きを取り戻し、元のような賑わいを見せているのでしょうか。

この騒ぎにおいて、最初の一件をスクープしたのが週刊ポストという週刊誌でしたが、この記事の担当記者がこれをきっかけに全国の温泉地の問題を調査した際の一連の取材内容をまとめた「ウソの温泉ホントの温泉 – あなたが行く温泉は大丈夫?」という本を見つけ、パラパラとめくってみると面白そうだったので読んでみました。

問題となったのは白骨温泉だけではなく、伊香保温泉筋湯温泉伊東温泉由布院温泉という日本各地の名湯と呼ばれるところが取り上げられ、様々な種類の異なる問題が明らかにされています。それは温泉地全体の問題であったり、個別の温泉旅館の問題であったりするのですが、この本ならびに週刊ポストのスタンスとしては名指しの個人攻撃はせず、日本の温泉とそれを律する温泉法に対し問題を明らかにする、ということになっており、読んでいて嫌な感じはしませんでした。

ただ、指摘を受けた旅館側の対応は様々で、あっさりと非を認め前向きな対応を見せるところ、事実を認めながらもあくまで違法ではないと開き直るところ、取材自体を拒否するところとあるようです。このあたりは週刊ポストを読んでいれば窺えるところだったのでしょうが、テレビやネット上で騒ぎを見ているだけではわからないところで、取材ドキュメンタリーとして面白いものとなっています。

巻末には「全国源泉100%掛け流しの宿200選」として信頼できる宿が各地から選り抜かれて掲載されています。もちろんここに載っていない宿でも同様の基準を満たしているところが数多くあるということは注記されていますが、掲載されるかどうかというところには取材への協力姿勢なども反映されているのではないかと思われ、それはそのまま接客姿勢にも繋がるものがあるかもしれません。残念ながら私が泊まったことがあるような宿は載っていないようですが…

まあそれにしても人の噂も75日とはいうものの、この事件をきっかけに日本の温泉の多くは大きく変わったことでしょうが、全く対岸の火事と受け流してしまったところもあるのでしょうか。私も温泉は昔から好きで、白濁した白骨温泉にも一度行ってみたいと思っていただけにショックな出来事だったのですが、今はかえって安心して訪れることができるのかもしれません。たとえ入浴剤が入っていたとしても気分良く帰ってこられればそれでいいではないか、という人もいるようですが、正直者が馬鹿を見るようなことは良くありませんよね。この事実を暴いた週刊ポストには私も感謝すべきかもしれません。