Lucasfilm大いなる成功の陰には尋常ならざる苦労と努力が

先日なぜ突然「THX 1138」などという映画を観ることにしたのかというと、この本を読んでいたからなのですが、これは映画監督George Lucasの誕生から「スター・ウォーズ エピソード6 ジェダイの帰還」の直前までの半生を綴った伝記です。

スカイウォーキング 完全版―ジョージ・ルーカス伝
原著:Dale Pollock
ソニーマガジンズ (1997/05)
ISBN/ASIN:4789711897

天才的な芸術家というのは非凡な来歴を持っていることが多いものですが、Lucasの場合も何事にも反抗して車にのめり込んでいた頃に交通事故を起こして九死に一生を得て、その時病院のベッドで考えを改めたことが映画監督への道に繋がっているそうです。もしその交通事故がなかったとしたらこの世にスター・ウォーズも存在しなかったかと思うと、その事故はLucas本人にとってだけではなく、世界にとっても重要な出来事であったということになります。

映画監督を志すようになってからは南カリフォルニア大学で学んで頭角を現すようになり、卒業後Francis Ford Coppolaと共に立ち上げた制作会社American Zoetropeでの初監督作品が「THX 1138」でした。その後は誰にも介入されずに映画を作るためにCoppolaと袂を分かって自らの制作会社Lucasfilmを立ち上げ、ここで制作された「スター・ウォーズ」が大成功を収めたのでした。

と書くのは簡単なことですが、実際には相当な困難があったというのは言うまでもありません。スタジオに介入され搾取される旧来のハリウッドのシステムに嫌気して、自らの資金で製作することで独立性を確保し、ハリウッドに頼るのは基本的には配給のみという形に持って行くことができたのはスター・ウォーズの大成功があったからこそですが、そのために彼が費やした労力も計り知れないものです。ただ才能があるだけでは思い通りの映画を作ることもできないので、相当な努力も必要なものなのです。

まあ本書はあくまでもLucasの側から見た映画界でしかないので、Lucasとウマの合わなかった登場人物にもそれぞれ言い分があるでしょうし、ハリウッドのシステムも長い歴史の上に築かれたもので効率的な部分、必然的な部分もあることでしょう。事実、日本で洋画と言えば有名なものはほとんどハリウッドのものですから、芸術としてはともかく産業としての映画について言えば究極の形なのかもしれません。それでも一方で、Lucasが作り上げたスカイウォーカーランチは映画の製作者にとっては一つの理想郷と言えるのではないでしょうか。少なくともLucasにとってはそのはずです。

それにしても、内容からは逸れますが、本書で気になってしまったのは誤植の多さです。数ページに1カ所くらいの割合で誤字脱字、活字の抜け、文章のおかしいところがあり、ところどころ推測しながら読まなければならないような状態でした。今回読んだのは初版第一刷なのでその後修正されている可能性はありますが、ここまで酷いものは初めて見ました。まあ私もこのブログではまともに推敲できていないのであまり人のことは言えないのですが、商品として売っているものである以上、もう少し何とかしなければならなかったのではないでしょうか。