Midnight Express若い頃に読まなかったのは幸か不幸か…

家族が増えると休みをあわせるのが難しかったり人数分の旅費が負担になったりということで最近はすっかりご無沙汰してしまっていますが、以前の私は比較的海外旅行を楽しんでいた方ではないかと思います。しかしそれはあくまで日本ですべての旅程を確定させ、チケットの手配を済ませた上での渡航であったわけですが、世間にはそういう事前の準備をろくにせずにフラフラと風任せで放浪の旅に出てしまうという人もいるようです。そんなことは臆病な私にはとてもできないことですが、そういう人たちのバイブルであるらしい沢木耕太郎氏の「深夜特急」という作品を後輩Mが貸してくれたので読んでみました。

深夜特急〈第一便〉黄金宮殿
著:沢木 耕太郎
新潮社 (1986/05)
ISBN/ASIN:4103275057
深夜特急〈第二便〉ペルシャの風
著:沢木 耕太郎
新潮社 (1986/05)
ISBN/ASIN:4103275065
飛光よ、飛光よ (深夜特急)
著:沢木 耕太郎
新潮社 (1992/10)
ISBN/ASIN:4103275073

この作品は著者が20代半ばの1970年代初めに、インドのデリーからユーラシア大陸を縦断してイギリスのロンドンまで、途中安宿に泊まりながら乗り合いバスで行くその道中を記したものです。実際には日本を出発してまずは香港に渡っており、そこからデリーにたどり着く前に東南アジア各国を回っていますが、この旅はおよそ1年をかけた壮大なもので、安易な気持ちではとても真似のできるものではありません。

旅の内容については非常に細かいことが書かれているところもあれば、かなり大雑把に端折られてしまうところもあるわけですが、その記述を見ると詳細に記されているところは著者自身も楽しく充実した日々を過ごしたところであり、割愛されているところはあまりいいことがなかったのではないかと感じられます。旅のはじめで高揚感があるということもあるのでしょうが、特に楽しそうなのが香港から東南アジアまでの、本来の目的に入る前の部分だったりします。

インドからヨーロッパに入るまでにはアフガニスタンやイランといった現在は危険でとても足を踏み入れることができそうにない国々を経由することになるのですが、当時は当時で冷戦のまっただ中ですから現在とはまた違う緊張感があったはずです。しかし、それがあまり感じられないのはあえて触れなかったのか、あるいは当時の現地はまだのどかなものだったということなのでしょうか。

この本を貸すときにMは「若いうちに外国を体験させたいと思うなら子供に読ませるべきだが、放浪の旅に出したくなければ読ませない方がいい」というようなことを言われたのですが、私もそれは読んでみて納得しました。今の私でも読んでいるうちに旅に出たいという気になってしまいましたから、好奇心旺盛で無鉄砲な若者が読んだら間違いなく飛び出して行ってしまうでしょう。

先日読んだ「わたしの旅に何をする。」にも「まるでミッドナイト・エクスプレスではないか。」というような記述がありましたから、宮田氏も旅に出るようになったのはこの本の影響があるのではないでしょうか。私も子供達に海外で見聞を広めてもらいたいという気持ちがありますが、かといってもちろん危険な目には遭わせたくありませんし、これは葛藤がありますね。まあある程度の歳になれば親の手を離れて勝手に出ていくときは出ていくのでしょうが…