なみのひとなみのいとなみだからどうした…と言わずにいられない人には向きません。

どうも最近本を読んでばかりいるような気がしてならない私ですが、個人的に今年一番のヒットはタマキングこと宮田珠己氏です。最初に「ジェットコースターにもほどがある」を読んだのは1年近く前のことですが、それからしばらく経って今年7月に「ウはウミウシのウ」などを読んで火が付き、気がつけば氏の著作はほとんど読んでしまったようです。あとは「ポチ迷路」という謎の迷路本を残すばかりとなっていたのですが、先月終わりに宮田氏初の日常エッセイ本という触れ込みで「なみのひとなみのいとなみ」という新しい本が出版されました。

なみのひとなみのいとなみ
著:宮田 珠己
朝日新聞出版 (2008/09/19)
ISBN/ASIN:4022504749

この本は朝日新聞出版の「一冊の本」というPR誌と産経新聞の連載を中心に書き下ろしとその他あちこちに書かれたエッセイをまとめたものとなっています。しかし朝日新聞と産経新聞といえば単なる業界のライバルというより犬猿の仲、つい最近も橋下大阪府知事をダシに火花を散らしていた間柄ですが、そんな2紙の連載を1冊にまとめ、しかも朝日新聞出版から刊行してしまうとは編集者の力の入り具合はいかほどでしょうか。

そんな出版元の事情には全く関係なく、宮田氏の脱力ぶりは健在です。氏の学生時代、社会人時代の話や最近の日常生活、日々ふと感じたことなどがとりとめなく綴られていて、ところどころで吹き出しそうになりつつ、何とも言えずほのぼのしてきます。正直どうでもいいことばかりなのですが、やたらに緊張感のある人生ばかりでなく「こんな生き方でもいいのかな」という気になります。

特に何というテーマがあるわけでもないのがこれまでの旅行本や「ふしぎ盆栽 ホンノンボ」などとは違うので、ちょっとつかみ所がないような気もしますが、その分素の宮田氏に触れることができるとも言えるでしょうか。なのでタマキンガーには必読ということかもしれませんが、そうでない一般の人には下手するとなんだか変な人の変なエッセイにしか思えないかも…まあ氏の文章は好き嫌いもはっきり分かれそうですから、あまり「面白いから読んでみろ」とは勧めにくいかもしれませんね。

それにしても大阪大学工学部土木工学科を出てサラリーマン時代は営業職を務め、その後旅好きが高じてエッセイストになるとは一体どういう人生なのでしょうか。まあ作品で読んでいる限りでは会社員としてはろくでもない人にしか思えませんが、それはあくまでネタであって実際には非凡なる才能を内に秘めていたのでしょう。そうでなければエッセイストというのもそう簡単にやっていけるような世界ではありませんよね。それをそう思わせないのが氏の文才ということでしょう。