The Running Manこれもわずか3年後に来ていたかもしれない未来。

Tim Berners-Leeによる1990年台はじめの大発明、WWWによってこの世の中は大きな変化を遂げました。WWWによって行政などのサービスが自宅から手軽に利用できるようになったり、大抵の疑問はググれば解決するようになってしまったり、もちろんWWWがなければこんなブログなど姿形もなかったわけですが、Twitterなどのいわゆるソーシャルメディアなどによってコミュニケーションが双方向になったというのも非常に大きな変革でしょう。WWW以前は手紙や電話などによる個対個のやりとりは当然双方向だったものの、不特定多数を相手とする発信は基本的に新聞やテレビといったマスメディアの特権でした。

以前は国家権力によるマスメディアの統制が、特に戦時には重要な意味を持っていたわけですが、同じような手はもう使うことができないでしょう。今日観た1987年の映画「バトルランナー (映画)」は、独裁政権により管理されたテレビを唯一の娯楽として与えられた社会が舞台となっていますが、この映画が作られた時にはWWWもまだ生まれておらず、テレビ放送の内容を管理することにまだ意味があった時代の作品ということになるのかもしれません。設定としては作品の公開から30年後、現在からはわずか3年後の2017年ということになっていますが、そこで描かれているのは「来なかった未来」ということになりそうです。

主人公の警官Ben Richardsは任務中に不本意な命令を拒否したために拘束されて無実の罪を着せられ、強制労働所に収監されていました。その後仲間と協力して脱獄を果たしたものの、逃亡中に再度捕らえられてしまいましたが、今度は脱獄時の映像を見て目を付けた人気司会者Damon Killianによって、犯罪者が処刑者に追われるという彼の人気番組”The Running Man”へと出演させられることになってしまう、というのが背景になります。

よくよく考えてみると、犯罪者や奴隷などが猛獣などと圧倒的に不利な戦いを強いられ、それを見世物にされるというのは大昔から行われてきたことで、実に古典的なアイデアなのかもしれません。この作品の何が違うのかというと、もともとRichardsが何の罪も犯していないのに凶悪犯罪者と喧伝されてしまっているように、様々な過去がテレビによって作られ改変されている、ということでしょうか。まあ、テレビすらなかった時代であれば権力者の言うことが全て正しい、ということもあったでしょうから、本質的には何も変わらないのかもしれません。

主人公のBen Richardsはポスターを見ればすぐに分かるようにArnold Schwarzeneggerが演じているため、どうしてもアクションスターがバッタバッタと敵をなぎ倒す単純な娯楽作品に見えてしまうかもしれません。しかし実際のところそれほど戦闘シーンは多くなく、心理的描写や社会背景の描写もある程度重視されているように思えるので、スターの存在感が強すぎるのも困ったものです。

この作品自体有名ですし、日本でも何度かテレビ放映されていたので私も観たことがあったのですが、あらすじしか憶えていなかったので思った以上に楽しむことができました。作品中に描かれているテレビ番組の演出が80年台テイストで相当古臭いのですが、当時はなんとも思わなかったはずなので、その時予想できた未来のテレビ番組というのはこのようなものだったのでしょう。もちろん今は未来的だと思っている作品だって、30年後の人にはどう見えるのかなんて分かりませんからね。