Timeline主題はタイムトラベルなのに歴史物

Michael Crichtonといえば「ジュラシック・パーク」シリーズをはじめ数多くの作品が映画化され大ヒットとなっているアメリカのSF作家・脚本家ですが、最近読んだ「プレイ -獲物-」や「エアフレーム -機体-」がとても面白かったので私もすっかりファンになってしまいました。SFとしてはかなり軽い部類に入るのだとは思いますが、それを支える各種の専門的描写の細かさによりリアリティ溢れるものになっているのが読者を引き寄せるところなのではないでしょうか。それも綿密な取材があればこそのものでしょう。

図書館の書架にも彼の作品はまだ何作も並んでいるのですが、今度私が読んでみることにしたのは既に映画の方は以前観ていてストーリーは知っている「タイムライン」です。

タイムライン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
著:マイクル クライトン
早川書房 (2003/12)
ISBN/ASIN:4150410542
タイムライン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
著:マイクル クライトン
早川書房 (2003/12)
ISBN/ASIN:4150410550

この作品はタイトルからも想像が付く通り一種のタイムトラベルが主題となっているのですが、初めのうち物語が進行するのは中世の城郭の発掘現場で作業にあたる大学教授とその教え子たちの間です。この学生らが主人公となるため、その人物像を描こうとしてだとは思うのですが、上巻の前半辺りまではやや退屈な調子となってしまっています。それを過ぎると物語は大きく進展し、スリリングでダイナミックなものになっていくのでそこまでの冗長な感じがもう少し何とかなればという気がしてしまいます。

タイムトラベルものといえばつき物なのが、過去に行った人間が未来に影響を与えてしまい自分自身の存在やタイムトラベル自体が矛盾したものとなってしまうというタイムパラドックスの問題ですが、この作品ではかなり大胆な理論でこれを否定しています。これは映画では特に触れられていなかったのではないかと思うのですが、ちょっと強引で無理やりな感じはするもののオリジナリティのあるものと言えるのではないでしょうか。まあ実際タイムトラベルというもの自体が空想の産物に過ぎませんし、将来いくら技術が進歩したからといって実現するものとは思えないのでどういう理屈があってもいいのではないかと思います。とは言っても「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。」とされていますからどうだか分かりませんが…

物語の主な舞台となっているのは100年戦争まっただ中の14世紀のフランスで、あまり資料が残っていない時代らしくここで描かれている情景はあくまでCrichtonの想像、あるいは創作に過ぎないのかもしれませんが、全く知識のない私が漠然と想像しているようなのんびりとしたものとは全く違う、かなり緊張感があり、また一方で華やかで活気のある世界となっています。同時期の日本のことも私はよく分かっていないのにそんなヨーロッパのことなど知っているはずもないのですが、こうして作品の舞台としてでも触れることがあると興味が湧いてくるものです。

この作品で一番気に入っているのは映画で言えばラストシーン、エピローグの部分ですね。ちょっとありがちではあるのですが、なんだかホッと暖かい気持ちにさせてくれます。殺伐とした中世の世界ではかなり残酷なシーンも多く気分が沈みがちになってしまうので、最後の最後にこういうシーンがあると救われるような気がします。このシーンのためにここまでの物語があった、といっても良いくらいかもしれません…というのは言い過ぎですが、それくらい私はこういうのが大好きなのです。

ということで、次はそろそろ「ジュラシック・パーク」を読んでみることにしましょうか。

タイムライン
監督:マイケル・クライトン , 他
アミューズソフトエンタテインメント (2006/06/23)
ISBN/ASIN:B000FHIVV8