久しぶりに見た重厚感
私は中学生の時に父の転勤でイギリス、ロンドンに住んでいたのですが、まだインターネットはおろか家庭用ゲーム機も普及していない時代で今ほど娯楽が少なかったこともあって、日本人学校の友人らに連れられていくつも映画を観に行きました。しかし当然台詞はすべて英語で、もちろん日本語字幕などもあるわけがなく、ストーリーはほとんど理解できなかったのでアクションもの以外は雰囲気しか楽しめなかったのですが、そういった中の一つがDavid Lynch監督の「デューン/砂の惑星」で、今となってはまったく理解できなかったことしか覚えていない有様です。
この作品はFrank Herbertによる小説シリーズ「デューン」を映画化したものですが、これを再度映画化した「DUNE/デューン 砂の惑星」が公開されていました。私は昔もった印象があまり良くないこともあって見送るつもりでいたのですが、監督が「メッセージ」や「ブレードランナー2049」のDenis Villeneuveであり、またRotten Tomatoesの評価も高いというのを見て、やはり大スクリーンと良い音響で観ておくべきだろうと思い直して映画館へ足を運んできました。
「デューン」は簡単に言えば宇宙で繰り広げられる皇帝と貴族の間の権力争いと陰謀の物語ということになり、中世的な価値観が砂漠の惑星を舞台にして語られているというような印象があります。本作でも恒星間航行が可能な宇宙船やシールドはあるのに銃火器はなく剣と弓で戦うというのがちょっと謎でした。
また、Lynch版ではデューンといえばサンドワームというくらい名物的存在になっているのではないかと思いますが、砂漠に住むその巨大な砂虫は本作では簡単に姿を見せないところが底しれぬ恐怖を感じさせていいのではないかと思います。とはいえ、あの巨体であの運動量を維持できるほどのエネルギーを、食料の乏しい砂漠でどのように得ているのかを考えてしまうと荒唐無稽ではありますね。
主人公のPaul Atreides役はTimothée Chalametが演じていますが、端正な顔立ちにクリクリのブルネットが高貴な感じを漂わせていてなかなか良いです。最初は子供っぽさがありますが、物語が進むにつれて徐々に凛々しくなっていくところもいいのではないでしょうか。
全般的には「久しぶりに重厚なSF作品を観た」というのが私の感想になります。どうしても原作に縛られているので、「良くも悪くもデューン」というところはあり、物語に古さを感じてしまうところもあるのですが、それは必ずしも悪いことばかりではなく、最近の作品にありがちな軽さ、薄さを感じさせないものになっているのではないかと思います。原作を発展させて新しい趣向を見せてほしかったという声もあるようですが、私はこれで良かったと思いたいです。
なお本作は二部作の第一部ということになっているので、ぜひとも第二部もしっかり完成させて世に送り出してほしいです。そのためには本作の興行の好成績が欠かせませんが、絶好のタイミングとは言えないのが辛いところです。