コスモロジストの指輪2000年の時を隔てて進行する2つの物語…

毎年暮れも押し迫る頃、12月24日にはクリスマスにあやかりロマンチックな気分に浸ったかと思えばその一週間後にはどこかの寺の除夜の鐘を聞き、正月には神社に初詣、という節操のない現代の日本人にはなかなか想像できないことかもしれませんが、いつの時代も宗教の違いというのが大きな争いの元となってきたものです。今の世界で代表的なのはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の間の対立ですが、実はキリスト教もイスラム教ももともとユダヤ教から分かれたものなので、キリスト教でいうところの「旧約聖書」というのはユダヤ教の唯一の「聖書」であり、イスラム教でも「啓典」の一つであるというのは意外なところかもしれません。

キリスト教においてはもう一つの聖書として、イエス・キリストの弟子たちやその後の教徒らが書いたものをまとめた「新約聖書」というものがあり、キリストの教えを伝えるものとしてはこちらの方が重視されているわけですが、ここに含まれておらずごく最近になって発見されたという「マリアによる福音書」というものがあるそうです。ただし「マリア」といっても聖母マリアではなく、「マグダラのマリア」と呼ばれる別の人であるというところがまたややこしいところなのですが、昔からある名前のようなのでこれは仕方ありません。

ということで、この「マグダラのマリアによる福音書」というのがサブタイトルに付けられた「待ち望まれし者」という本を見付けたのですが、これが宗教書なら読もうとは思わなかった私も

ボッティチェリをはじめとする芸術家、ヨーロッパの王家、科学者からアーサー王伝説まで織り込んだ壮大な歴史ミステリー3部作、ついに開幕

という紹介文に興味を持ち、読んでみることにしました。カバーにはボッティチェリの「マニフィカートの聖母」という宗教画が思いっきりあしらわれていて怪しいとは思ったのですが…

待ち望まれし者(上)
著:キャスリン・マゴーワン
ソフトバンク クリエイティブ (2007/02/22)
ISBN/ASIN:4797336560
待ち望まれし者(下)
著:キャスリン・マゴーワン
ソフトバンク クリエイティブ (2007/02/22)
ISBN/ASIN:4797340061

ちなみに出版は「ソフトバンク・クリエイティブ」で、ソフトバンクのロゴに何となく違和感を覚えてしまったのですが、今や携帯電話Yahoo! BBで情報通信企業としての顔の方が前面に出ているソフトバンクも元はといえばPC関連の出版で大きくなった会社なので、こちらの方が本業に近かったりするのですよね。私も含め最近の人はそうは思わないでしょうが…

それはさておき、この作品では「マグダラのマリアの福音書」はなぜかまだ見つかっていない伝説の書ということになっていて、これをめぐる組織同士の争いに巻き込まれるノンフィクション作家の女性が主人公となっています。これだけなら今までにもいくつか読んだ宗教ミステリー作品とあまり変わらないのですが、主人公が見る幻視と、各章で引用されている「マグダラのマリアの福音書」のせいでちょっと妖しげで、非常に宗教色の濃いものになっています。

作品の内容もまたキリスト教そのものと深く関わるものとなっているので、キリスト教についてある程度学んで知識を持っている人でないとサッパリ意味がわからず、何が面白いのかもわからないのではないでしょうか。私自身は決して熱心な信者ではありませんが、子供の頃から教会に連れられていったおかげで一定のレベルの知識は身に付けてしまっており、それなりに楽しむことができたのですが、まるで聖書やその解説書を読んでいるかのように思える部分も多々ありました。

この物語の主な舞台となっているのが南仏のレンヌ=ル=シャトーというところなのですが、最近読んだ「テンプル騎士団の遺産」などでも重要な舞台となっていたりして、キリスト教に関連する歴史や伝説を語る上では外せない場所なのではないかと思えてきました。日本からの観光客というのはあまりいないのではないかと思いますが、俄然興味が湧いてきてしまいましたので、機会があればぜひ行ってみたいものです。

また本書のストーリー自体、根本的には「ダ・ヴィンチ・コード」と同じテーマを追っているものですが、これらの作品に大きな影響を与えることになったという「レンヌ=ル=シャトーの謎」というノンフィクション作品は読んでみなければならないのかもしれません。これを読んでしまうとネタバレに近いものがあるのかもしれませんが…