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アートの島・犬島と日生のカキオコ

程よく充実。

先日、デイリーポータルZのデジタルリマスター版(2007年の記事を写真画像を大きくして再掲載)として公開された「日生のカキお好み焼きを食べてきた」という記事を見つけ、以前食べに行ってとても美味しかったので「年明けにでも食べに行こう」とFacebookでシェアしたのですが、この時会社のZさんから食いつきがあり、この正月休みの間に一緒に食べに行こうということになりました。自宅から日生までは一般道でも1時間強で着いてしまう距離なのですが、せっかくなのでどこか寄るところはないだろうかと考えたところ、前からちょっと気になっていた犬島がいいのではと思いつき、行ってみようということになりました。

犬島へは宝伝港から高速船に乗って渡ることになりますが、10分足らずで着いてしまいます。また車で渡ることはできませんが、とても小さな島なので歩いて回っても十分なので、宝伝港周辺にある有料駐車場に停めていくことになります。フェリーの代金は300円、往復とも宝伝港で係の方に現金で支払うことになりますので、小銭を用意しておいた方が良いようです。

犬島には何があるのかというと、有名な直島とあわせてベネッセが運営するアートの島となっており、島内に現代美術作品が点在しています。作品は瀬戸内国際芸術祭の一環で製作・展示されているものですが、トリエンナーレ形式で3年に一度開催されるもので前回は2016年、次回は2019年なので今はちょうど端境期であり、また直島ほど有名ではなく規模も大きくないので落ち着いている状況です。

私も特に現代美術に造詣が深いわけではありませんが、芸術などというものは個人個人が思いのままに楽しめば良いものだと思っているので、難しいことは考えず直感で捉えるようにしており、「これはなんかいいな」くらいで楽しんでいます。当日は天気も良かったのでブラブラと散歩がてらアートを鑑賞するという感じで島内を回りましたが、私が特に気に入ったのはF邸「Biota (Fauna/Flora)」です。館内では撮影禁止とのことなので写真に収めることはできませんでしたが、「Fauna」の部分がなんとも言えない優しい雰囲気を持っていて好きです。

また、最も大規模なのが犬島精錬所美術館という、20世紀の初め頃に稼働していた銅の製錬所の遺構を利用したもので、美術館全体が「ヒーロー乾電池」という一つの作品になっています。三島由紀夫をモチーフにした作品で、三島作品をちゃんと知っていればもっと楽しめたのだろうと悔やまれますが、そうでなくともなかなかグッと来るものがあり、見に行った甲斐があったと思います。なお、作品のタイトルである「ヒーロー乾電池」の箱が書棚の上にひっそりと置かれているのを発見しました。

週末に限り、美術館では犬島で生まれ育ったおばあちゃんが島の歴史などについて解説してくれるということだったのですが、本土に戻る船の便数が少なくタイミングを逃すと1時間以上待たなければならず、作品を見終わったところでちょうど船の出発10分前だったので急いで港に戻って本土に渡りました。このため夕食までにちょっと時間ができたので近くの西大寺観音院を軽く見学し、その後満を持して日生のカキオコに挑むことにしました。

私は2年ほど前にも一度、カキオコを食べに行ったことがあり、その時に入った「タマちゃん」でもとても美味しくて満足したのですが、今回はまた別の店に行ってみようということで、「カキオコ発祥の店」を謳うほりに行ってみることにしました。ここも有名店の一つなので週末の昼時には長い列ができるようですが、午後4時頃という中途半端な時間に入ったためすぐに座ることができました。しかし、地元の方々に親しまれているらしく、そんな時間でも満席に近い状態でした。

私たちはカキオコのカキ増量玉とカキモダン焼を注文してシェアすることにしたのですが、最初に私があえてカキオコと違うものにしようとしてカキちゃんぽん焼をお願いすると「お好み焼きじゃなくていいのか」と言われてしまい、お勧めなのであればということでモダン焼きに変更したのでした。地元民ではないのでよくわかっていないと思われたのでしょうが、親切心で教えてくれたことはわかったので悪い印象はありません。

焼いているところを目の前で見ながらしばらく待っていると、私たちの前にカキオコとモダン焼がやってきました。お好み焼きの上にたっぷり10粒の牡蠣が載り、その上に塗られたソースの照りがさらに食欲をそそる美しさです。何枚でも写真を撮っていたくなりますが、そうも言っていられないのでできたての美味しいうちにさっさといただくことにします。カキオコの素晴らしいのは、牡蠣を焼く時にお好み焼きの生地で蒸し焼き状態になるため、牡蠣が縮まずぷりぷりした状態で焼き上がっているということです。今回は増量したことで1人10粒もの牡蠣をいただくことができて、腹持ちのいい粉物でもあり、質量ともに大満足で帰路に就くことができました。

ということで、播磨地方からの日帰り旅行の理想的なプランとなったわけですが、カキオコだけであれば会社帰りにも行けないことはない距離なので、この冬の間にでももう一度、また別の店を試してみたいと思います。また、犬島の方は今回の旅でほぼ網羅できたので、今度は直島の方へ足を伸ばしてみたいところです。

奈義町現代美術館 NagiMOCA

思いがけない感動。

昨日は朝夕に部活の試合が行われる中学校へ次男を送り迎えする必要があったので、その間にどこかへ出かけようと思ったのですが、ある時間までに戻らなければいけないとなるとそれに対して余裕を持って行動する必要があるのであまり遠くへ行かずに楽しいところがあるだろうかといろいろ考えていました。その時、旅行に特化したキュレーションサイトRETRIPの「息をのむほどの美しさ。日本にある“フォトジェニック”な美術館7選」という記事が目に付いたのですが、その中の一つが今回行くことにした奈義町現代美術館 (Nagi-cho Museum of Contemporary Art)です。

奈義町は岡山県の北東部に位置する人口6000人ほどの農林業を主要な産業とする小さな町です。しかしここに、素晴らしい美術館があるというのです。自宅からは一般道でも2時間かからない距離なので、思い立ったが吉日ということでさっそく行ってみることにしたのでした。しかし「フォトジェニックな美術館」というのは美術館としてはどうなのかと少々疑問を抱きながらだったのですが、行ってみるとそれは完全に払拭されました。

建物は磯崎新の設計によるものですが、目立つのは斜めにそそり立つ円筒形の構造物です。前掲のRETRIPの記事はあえてほとんど読まずに行ったのでこれが何なのかは知らないままだったのですが、あとで考えればそれがかえって良かったかもしれません。窓口で丁寧に説明してくれた時に「右側奥の黒い螺旋階段を登ると円筒に入ることができる」と教えてくれたのですが、まさか中がこんな風になっているとは思わず、とても感動してしまいました。

常設展示は3点の小さな美術館なのですが、入り口を入って最初にあるのは磯崎新の妻である宮脇愛子による『大地 ≪うつろひ-a moment of movement≫』です。この作品は半分が屋外、もう半分が屋内となっているので、季節によって感じ方が異なるかもしれません。壁に沿ってベンチが並んでいるので、座ってゆっくり時間の流れを感じると良さそうです。

そして今回最も感動したのがあの円筒の中、螺旋階段を登っていった先にある荒川修作+マドリン・ギンズの『太陽 ≪遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体≫』です。私はこの作品を目の当たりにした時の感動を言葉でも写真でも表現することができません。見たままを言うと、真南を向いて傾斜して設置された天面側が光を取り入れるようになっていて、その反対側は黒、そして側面に沿って左右に龍安寺の石庭、下にはベンチとシーソー、鉄棒があり、上には同じものが1.5倍の大きさになって設置されています。こうして写実的に説明しても感動はさっぱり伝わらないはずですが、それがどう凄いのか、それは実際に足を運んで見てみるしかないでしょう。あくまで私にとってはですが、この作品にはそれだけの価値があると思います。

ちなみにあとで調べて知ったのですが、この作品の作者、荒川修作とMadeline Ginsの二人ですが、私が以前帰省の途中にわざわざ立ち寄って入口まで行ったにも関わらず閉園日で入れなかった養老天命反転地の作者だったのでした。つい先日後輩Mが養老天命反転地に行ったそうで、その話を聞いた翌日だったというのは奇遇というものですが、ぜひもう一度行って体験しなければという思いを強くしました。

そしてもう一つの常設展示は『月 ≪HISASHI-補遺するもの≫』ですが、この作品が私には最も難解でした。部屋の形が三日月型をしているので「月」というのはいいのですが、HISASHIなるものが実に不思議な物体です。作者の説明によると「『補遺』という概念を的確に表わしているもの」なのだそうですが、その「的確」という単語の定義すらあやふやに感じてしまうほど、得体の知れない感じです。一般の人が「現代美術」というものに持っているイメージはまさにこういうものかもしれません。

この作品、というよりこの部屋が面白いのは、意図的なのかどうかわかりませんが音が非常によく響くということです。自分の咳払いや足音、カメラのシャッター音も大きく響き渡るので、もしもたくさんの人が同時にこの部屋にいたら騒がしくて仕方がないかもしれません。なお、この日私は午前中に訪れたのですが、他の見学者は2,3人いたようですが同じ部屋にいることはなく、それぞれの作品を自分ひとりで占有することができてとても良かったです。

ここでは常設展の料金で特別展も見ることができるのですが、この日は特別展として田代卓展をやっていました。田代卓の作品は広告などでも使われているので多くの人が一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。鮮やかな色使いと目の大きな可愛らしいキャラクターで非常にポップなイラストが特徴ですが、見ているだけで楽しくなるような作品が並んでいました。

ということで、めったに美術館になど行かない私ですが、ここは本当に行ってみて良かったです。周りには何もないところなので遠くからはなかなか訪れにくいかと思いますが、直島へ行くついでにでもいかがでしょうか。といっても私はまだ直島へ行ったことがないので、次は是非と思っているところですが。なお、私も念のため確認しましたが、この奈義町現代美術館では写真撮影は基本的に、営利目的などでなければ問題ないようです。ただし通常、特別展の撮影は禁止されているようですが、今回の田代卓展は「田代卓展/奈義町現代美術館」とクレジットを入れることでSNSなどへの投稿も許可する、との柔軟な姿勢でした。

Detroit Institute of Arts Museum

たまには芸術に触れるのも。

毎週土曜日に子供達を日本語補習校へ通わせている我が家では、子供を学校へ送ったその足で夫婦で買い物などに行くのが恒例になっています。しかし、そう毎週毎週買い物ばかりもしてはいられないので今週はどうしようかと考えたところ、子供と一緒でない方がいい所ということで思いついたのが美術館です。本当は小さいうちから芸術にはある程度触れておくべきだと思うのですが、残念ながらこれまでなかなかそういう機会を作れなかったので急には無理です。

ということで、今日はデトロイト美術館ことDetroit Institute of Arts Museumへ行ってきました。この美術館は全米有数の犯罪都市デトロイトの中心部に近いところにありますが、美術館周辺は昼間なら安全と言われています。まあそうでなかったら誰も見に行きませんよね。しかしながらフリーウェイを降りてからそこにたどり着くまでの沿道には廃墟や空き地が多く、やはり気を抜くことができません。

ビクビクしながら駐車場を見つけて車を停め、館内に入ればもう安心です。入館料は大人$8ともともと安いのですが、近隣の郡の住民は無料となっているようです。私の家はその隣の郡になっているためこの特典を受けることはできませんが、とてもいいことではないでしょうか。日本の公立の美術館にもぜひ見習ってほしいものです。

展示は古代エジプト・ギリシャやアメリカ原住民の美術品からヨーロッパとアメリカの近現代の作品まで揃っていますが、特にアメリカの作品が充実しているとのことです。これは日本ではあまり見ることができないものですから、私達にとっては貴重といえるかもしれません。またその他、ゴッホやルノワール、ピカソなどの有名作品も収蔵されているのですが、作品の前には何も隔てるものがなく、人だかりがあるわけでもないので、これらの作品の間近に寄ってじっくりと見ることができるというのが素晴らしいことです。どんなに貴重な作品であってもあまりにさり気なく展示されているため、ついつい見過ごしてしまいそうになるほどです。

私が今回特に見ておきたかったのはゴッホの自画像のうち、麦わら帽子をかぶったものです。これは後輩Mが見たいと言っていたためですが、確かに数あるゴッホの自画像の中でも最も明るい雰囲気のもので、彼の精神状態も一番安定していた時期のものなのではないでしょうか。これまで写真で見たことはありましたが、実際に見てみると思っていたよりも小さなものでした。

他に見た中で特に強く印象に残ったのはブロンズィーノの「エレオノーラ・ディ・トレドと子息ジョバンニの肖像」です。この作品に描かれているエレオノーラのドレスの生地がまるで写真のようで、シルクの光沢と立体的な刺繍が本物を見ているようにしか思えず、本当に驚かされました。またこれが500年近くも昔の絵と知って、さらに驚かされずにはいられません。

もうひとつ驚いたのは、美術館の建物に、実際のフランスのチャペルの一部が組み込まれてしまっていることです。ここには細かいステンドグラスが嵌めこまれているのですが、まるでヨーロッパの本物の教会のようだと思って近寄ったらフランスのチャペルだと銘板にあってびっくりしたのでした。1923年に実業家が購入し美術館に寄付したものだということですが、財力に物を言わせてこのようなものまで運んできてしまうとは恐れ入ります。

ということで、色々と驚かされるものもありましたが、こうしてたっぷり芸術に浸ってみると心が満たされるような気がしました。西洋美術を見るのはかなり久しぶりで、実は大人になって初めてではないかという気もするのですが、これまでとは違う見方ができて楽しむことができました。しかし今回はとても全部を見ることができず、まったく入ることもできなかった部屋もいくつもありますし、現代美術なども早足で見ただけで終わってしまいましたので、またもう一度ゆっくりと見に行きたいと思います。